【東京商工リサーチ掲載記事】面接の場での「今の給与おいくらですか?」~前職の給与に頼る初任給設定の落とし穴~<社会保険労務士 浅山雅人>
中小企業のあるある話し
新入社員の初任給を決めるために候補者に「前職ではおいくらでしたか?」と尋ねていませんか?その人の前職の給与に少しだけ上乗せして提示すれば、候補者も満足して入社し、会社に貢献してくれるだろうというのがその理由です。多くの中小企業経営者が、初任給の設定においてこのような方法を採用していますが、実はこの考え方にはいくつもの落とし穴があります。
まず前職の給与を基準に初任給を決めるという方法は、その人の実力を正確に反映していない可能性が高いです。前職での給与が低かった場合、それは必ずしもその人の能力が低いことを意味しません。むしろ、前職の企業が給与を抑えざるを得ない状況だったり、業界全体の給与水準が低かったりするだけかもしれません。逆に、前職での給与が高かったとしても、その高給与が業界特有の要因や、一時的な業績によるボーナスであった場合、自社で同様の成果を期待できるかは別問題です。
さらに、前職の給与に基づいた初任給の設定は、社内の給与体系全体を不公平にするリスクをはらんでいます。特に、中小企業では社員同士の距離が近く、給与の話題が持ち上がることも珍しくありません。もし、同じ職位や仕事内容の社員が、前職の給与だけを理由に異なる初任給をもらっていることが分かれば、不公平感が広がり、社員の士気低下を招くでしょう。結果的に、企業全体のモチベーションが低下し、生産性の低下を引き起こす可能性が高まります。
原則があってこそ例外、まずは原則を!
これらの問題を避けるためには、初任給の設定にあたり、前職の給与に過度に依存するのではなく、より多面的なアプローチが必要です。具体的には、以下のポイントを考慮することが求められます。
1.スキルの評価:候補者がどのようなスキルを持っているのか、そしてそのスキルが自社でどのように活かされるかを評価します。例えば、技術職であれば、その技術が会社のプロジェクトにどれだけの価値をもたらすかを見極めます。
2.役割の重要性:そのポジションが会社にとってどれほど重要であるかを考慮します。新しいポジションであれば、その役割が事業の成長に直接関わるかどうかを見極め、適切な報酬を設定します。
3.市場調査:同業他社での同様のポジションにおける給与水準を調査し、競争力のある給与を設定します。これは、優秀な人材を確保するために重要です。
さらに、社内の給与体系が一貫していることを確認し、公平で透明性のある基準を設けることが重要です。社員が自分の給与がどのように決まっているかを理解できれば、納得感が得られ、不満が少なくなります。
もちろん、給与交渉の場で前職の給与が話題に上ることは避けられないかもしれません。しかし、前職の給与を初任給の唯一の指標とするのではなく、他の要素もバランス良く考慮することが重要です。例えば、候補者のこれまでの実績、経験、そして自社での将来の成長可能性などを重視することが必要です。
仮に水準を超えて支給する場合は、ルールで決まった基本給、手当のほかに、その差額を「特別手当」などの形で外出しにし、見直し可能な状態にすべきでしょう。(お金にきちんと名前をつける!)もちろん賃金規程と雇用契約書でその旨を明記することが条件となります。
結論として、中小企業の経営者の皆さんには、初任給の設定をより慎重に行うことをお勧めします。前職の給与に頼らず、候補者の持つスキル、役割の重要性、市場の給与水準、そして社内の公平性を考慮した給与体系を築くことが、企業の成功と社員の離職率低下につながるのです。
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