【東京商工リサーチ掲載記事】年金事務所の調査を知る:最新動向<社会保険労務士 石川宗一郎>
会社に「厚生年金保険被保険者の資格及び報酬等の調査の実施について」という書面が突然届き、驚いた経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。年金事務所の調査では、会社が社会保険事務手続きを適正に行っているか、社会保険の加入漏れや申請内容に虚偽や漏れがないかが調査されます。適正に処理していれば問題ありませんが、手続き漏れや虚偽があれば、2年遡って社会保険料が徴収されます。
どのような会社が調査対象となるのか
基本的にはランダムに社会保険適用事業所を調査しています。しかし、日本年金機構の令和5年度業務実績報告書によると、優先的に調査対象となる事業所についての記述があります。
最優先で調査される事業所は次の通りです。
・適用拡大後に追加調査が必要な事業所
・一定期間以上の遡及や大幅な報酬等の届出があり、特に確認が必要な事業所
・雇用保険被保険者情報から未加入者がいると見込まれる事業所
・被保険者から通報があった事業所
また、優先的に調査対象としている事業所として、次のものが挙げられています。
・算定基礎届を長期間未提出の事業所
・賞与支払届の未提出の可能性がある事業所
・事業実態が疑わしい事業所
・一定期間以上の遡及や大幅な報酬変更等の届出があった事業所
・一定期間、事業所調査が実施されていない事業所
・新規適用事業所で従業員が5人以上の事業所
また、未加入事業所については、税務署や法務局の情報を活用して加入指導を行っています。
調査の変遷
コロナ前までは、管轄の年金事務所へ事業所の人事労務担当者や顧問社労士が賃金台帳や労働者名簿などの帳簿を持参し、調査を受ける方法が主流でした。しかし、新型コロナウイルス感染症の流行により、対面での調査が中止され、書面を郵送する方法(もしくは電子送信する方法)へと変わっていきました。同時期に短時間労働者への社会保険適用拡大もあり、これまで対面の限られた時間では調査できなかった詳細まで指摘される傾向にあります。
具体的に調査でどのような点が指摘されるか
1)社会保険の加入漏れがないか
・社員や役員は基本的に被保険者となります。
試用期間中は加入させない・高齢者だから届出ないなどの加入漏れがないかのチェック(入社日から加入義務が生じます)。
・パートタイマー
パートタイマーやアルバイトであっても、通常の社員の4分の3以上の週所定労働時間および月所定労働日数で契約している場合は、加入義務が生じます。非正規雇用だから加入しないは通用しません。
・短時間労働者
被保険者51人以上の企業等では、次の条件を満たした短時間労働者は加入義務が生じます(2024年10月から従来の「101人以上」が「51人以上」の企業となりました)。
① 週の所定労働時間が20時間以上であること
② 所定内賃金が月額8.8万円以上であること
③ 学生でないこと
・複数の事業所から給与(報酬)を受けている場合
特に役員に多いケースですが、それぞれの事業所で加入手続きを取る必要があります(保険料額は合算して決定)。その手続きの漏れがないかの確認が行われます。
2)給与(報酬)の届出および手続きが適正に行われているか
・加入時の標準報酬月額が実態に即しているか
見込みの給与を適正に見積もり、適正な標準報酬が設定されているかの確認が行われます。
・社会保険料に関わる手続きの提出状況
算定基礎届、月額変更届、賞与支払届など社会保険料の算出に関わる手続きについて、提出漏れがないか、記載内容に誤りがないか、の確認が行われます。
一時金に関する指摘が増えている
最近の調査では、月次給与とともに支給される一時的な手当が賞与と判定されることが多くなっています。
具体的には、資格取得報奨金、年末年始手当、社員紹介制度の報奨金などが賞与と判断され、賞与支払届の提出を指導されるケースが増えています。
厚生年金保険法(第3条4項)・健康保険法(第3条6項)では、「賞与(とは、)賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が労働の対価として受ける全てのもののうち、3月を超える期間ごとに受けるものをいう」とされています。月次給与に混ぜて支給したとしても、その支給実態に基づき、手当の一部が賞与であると判断される事例が増えています。
このように一時金を賞与であると指摘されてしまうと、賞与支払届の遡及提出が求められ、追加で徴収される社会保険料が高額になるケースもあります。社会保険事務にミスがないか、賞与として指摘されるような手当を支給していないか、点検されることをおすすめします。
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