】改めて再確認する休職ルールと規程の整備<社会保険労務士 小山健二>

 日頃受ける労務相談の中で、私傷病休職に関する内容は後を絶ちません。近年はメンタル不調による休職が増加しており、その対応や判断はとても難しくなっています。
 一方、休職制度は法律上定められたものではなく、会社側のルール設定と運用次第で対応の良し悪しが変わってくる(裁判例などから一定の制限はあり)ことから、今回は、主にメンタル不調を想定した休職ルールのポイントを以下6つの項目に分けて解説します。

1.目的

 主に私傷病等により、長期間におよび労務提供ができなくなった労働者の解雇を猶予するための措置として用いられます。法律上の定めはありませんが、いきなり解雇手続を行うことは後に争いとなった場合に無効となることがあり、運用上は必須の制度と考えてください。裏を返すと、残念ながら労務提供が不安定となった従業員に退職してもらうには休職の手続が必要ということになります。

2.休職事由

 私傷病により概ね1か月以上労務提供ができないと判断された場合に適用することが一般的です。ここで注意が必要ですが、「継続して1か月間欠勤した場合に休職が適用される」というルールを設けている場合を散見しますが、この場合、休職になかなか入らないということが起きます。20日欠勤して1日出勤し、また欠勤が続くような場合です。
 また、労務提供が「不完全な場合」も適用できるようなルール設定は実務上必須となります。明らかにパフォーマンスが発揮されていないのに出社されても十分な労務提供ができないためです。

3.対象者

 従来は、正社員のみを対象とするルールが多数でしたが、近年は契約社員やパートタイマーにも適用させることを推奨します。これは、有期雇用者が雇入れから5年を経過した場合に無期転換権が発生すること、同一労働同一賃金の観点から、労働条件に不合理な差をつけてはいけないことから、会社を守るために適用を進めています。1.目的でも記載したとおり、残念ながら労務提供が不安定となった従業員に円満に退職して頂くためには実務上必須となります。

4.休職期間(通算規定)

 本来は会社が事由に定める事項となりますが、1、2か月が上限となっているルールはトラブルとなる可能性があります。短い休職期間の場合、もう少し療養すれば復職できることもあり、そうなると休職満了による退職が無効となってしまう場合もあります。
 少なくとも3から6か月程度以上のルール設定をお薦めしています。また、復職から同一又は類似の事由で再度欠勤や休職となった際は、復職前の期間を通算するというルールも実務上必須となります。これは、一度無理して復職して、あらためて休職期間の適用を受けることを防止するためです。

5.手続と就業判断

(1) 休職開始
 休職を開始する場合は、主治医の診断書に基づき、必ず書面で休職の開始時期を明記して適用させます。同時に、休職中の取扱いや次回の面談日程についても説明および記載し、休職に入ります。書面でのやり取りが無く、欠勤の延長でいつから休職が適用されているのか分からない状況というのが意外と多いです。この場合、復職が難しく、いざ退職の話をする際に休職期間満了の手続をとることが出来なくなります。
(2) 休職中(休職の終了=退職)
 休職中のルールは必ず定めておく必要があります。具体的には以下のような内容です。
・療養専念義務(通院すること、副業等をしないこと)
・面談に応じる義務(音信不通になることがある)
・社会保険料や住民税等の取扱い(給与が不支給となり、控除ができないことから徴収漏れとなることがある)
・これらに応じない場合の取扱い(懲戒対象となることや、悪質な場合は休職の打切りを行う旨)


(3) 復職(場合によっては通勤訓練)
 復職の判断基準は特に重要となりますので細かいルールが必要となります。具体的には、主治医に会社からコンタクトを取れるようなルールや、会社が指定する医師(産業医を含む)との面接や診療を拒むことが出来ないルール等となります。これは、退職したくないがために復職しようとする従業員が一定数存在し、症状を隠して復職しようとするためです。主治医も業務内容や就業環境の実態を詳細に把握せずに、就業可能である旨の診断書を記載する場合もあり、実態に合った判断を行う為にも時として必要となります(むしろこれを怠り、安易に復職させて症状が悪化した場合などは、会社が安全配慮義務違反の責任を負う可能性もあります。)。
 最終的には、主治医、産業医等の医学的見地を基に、会社が復職可否の判断を行います。

6.実務対応

 以上、休職ルールのポイントを解説しましたが、重要なのはルールの明文化、事前周知、休職適用時の書面による確認となります。これまで述べてきたルールは詳細に就業規則に記載して周知することをお薦めします。就業規則に記載がない場合は、対象者が発生した際に、覚書というかたちで当事者の確認を行うことが必要です。休職開始、休職中の面談、復職時等の節目には、書面で記録に残すことが必要となります。これらを怠った場合、休職という事実がなく退職のきっかけを失うことになります。
 
 以上が休職に関するポイント解説でした。メンタル疾患という現代特有でありかつ症状を判断しにくい傷病との付き合い方は難しいものがあります。当初は、治って復帰してもらうつもりだったけど、長引くことでいったん退職してほしいと気が変わることもあります。その際に適切な管理が行えるよう、また従業員も安心して休職制度を適用できるようにルールの再確認をしてみてはいかがでしょうか。

この記事を書いている人 
-Writer-

小山健二

特定社会保険労務士

【略歴】昭和51年生まれ、東京都出身。駒澤大学文学部社会学科卒業。 専門商社、人材サービス業を経て社会保険労務士法人で勤務し、令和4年にエフピオへ入社。

人事労務のみならず、経営企画、仕入、営業部門での多様な経験から、全体最適の視点で業務遂行を心がけています。事業会社、専門家双方でM&Aプロセス、DD実務経験がある。

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