【東京商工リサーチ掲載記事】労働時間は15分単位で勤怠システムを設定してもよいのですか?<コンサルタント 松岡藍>
みなさん、こんにちは。
社会保険労務士法人エフピオの松岡藍です。
顧問先様から「15分単位で勤怠システムの設定ができると聞いたのですが、わが社もそのような設定をしてもよいのでしょうか」といったご質問をいただきました。このご質問はいわゆる労働時間の端数処理が問題となりますので、今回は労働時間の端数処理から確認していきます。
労働時間の適切な把握とは
労働時間の端数処理を考える前に、使用者である会社はそもそも労働時間についてどのように把握しなければならないのでしょうか。
労働基準法(以下「法」という)には「使用者は労働者の労働時間を把握しなさい」と直接書かれているわけではなく、「・・・一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない」「・・・一日について八時間を超えて、労働させてはならない」(法第32条)や「・・・その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる」(法第36条)などの定めがあることから、この定めを守るためには労働時間を適切に把握することが使用者の責務だと言われる理由です。
この労働時間の適切な把握の仕方は、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」で示されています。このガイドラインを基に「労働時間を適正に把握し正しく賃金を支払いましょう」というリーフレット(以下「リーフレット」という)で令和6年9月に厚生労働省より改めて注意喚起がありましたので、始業・終業時刻の確認および記録、賃金台帳の適正な調製に分けて確認していきましょう。
<始業・終業時刻の確認および記録>
使用者は、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録すること。
① 原則的な方法(以下のいずれか)
・使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること
・タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎とし て確認し、適正に記録すること
② やむを得ず自己申告制で労働時間を把握する場合
上記①の方法によることなく、自己申告制により行わざるを得ない場合は、一定の措置を講ずる必要があること。
<賃金台帳の適正な調製>
使用者は、労働者ごとに、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、 深夜労働時間数といった事項を適正に記入しなければならないこと。
勤怠システムでの労働時間管理
ご質問のあった勤怠システムにおける労働時間管理は上記①における「ICカード・・・の記録等の客観的な記録」にあたると考えられますが、その際の記録の取り方が問題となっています。リーフレットでも法違反の例としてトップに挙げている内容が「勤怠管理システムの端数処理機能を設定し、1日の時間外労働時間のうち15分に満たない時間を一律に切り捨て(丸め処理)、その分の残業代を支払っていない。」というものです。
例えば、所定労働時間が9:00~18:00(休憩12:00~13:00)である労働者が9:00~18:40まで業務をした日について、残業時間を18:00~18:30とし、30分ぶんの残業代しか支払わないといった扱いを指摘しています。10分ぶんが切捨てされている状態が賃金全額払いの原則(法第24条)に反しているといえます。
端数処理の仕方
では、一切端数処理は許されないのかというとそうではありません。常に労働者の不利となるものでなく、事務簡便を目的としたものと認められるとして、通達において「1か月における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること」は法違反にならないとされています。
こちらの通達はあくまで日々日々の労働時間については端数処理をおこなわず1か月を単位として考えることを示していますので十分注意が必要です。
おわりに
今回は、労働時間の適切な管理の仕方と端数処理について条文やガイドラインに注目して確認してみました。ご質問のあった処理は勤怠システムの設定上可能かもしれませんが日々日々の残業時間について端数処理をすることは法律上できないとお答えすることになります。ご紹介した最新のリーフレットでもトップに挙がっているように件数が多く労働局も注目していると思われますので、設定が可能だからといって安易に導入するのではなく一度立ち止まって考えてみてくださいね。
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