【東京商工リサーチ掲載記事】健康保険の扶養と所得税法上の扶養の違い<社会保険労務士 浅山雅人>
年収の壁の問題が昨今取り上げられ現在も議論が継続中でもあり、皆さんにもご関心の高い話題ではないでしょうか。その議論の行方は一旦政治の世界に委ねることとし、本コラムでは、1)そもそも「扶養」には二つの異なるルールをあること、2)そしてその具体的なルールをわかりやすく解説します。
1. 所得税法上の扶養親族とは?
所得税法上の扶養親族は、「生計を一にする親族で、所得金額が一定以下の者」と定義されています。つまり、所得税において扶養控除を受けるためには、扶養親族が一定の条件を満たす必要があります。具体的には、扶養親族が一定の所得金額以下であり、その家族が経済的に扶養していることが求められます。
所得税法における扶養親族の判断基準として重要なのは、親族の「所得」が基準となることです。
2. 健康保険法上の被扶養者とは?
健康保険法における被扶養者は、「主として被保険者により生計を維持している者」と定義されています。健康保険の被扶養者として認定されるためには、家族が主に被保険者から生活費を受け取っている必要があります。
また、健康保険法における被扶養者の判定は、今後1年間の収入見込を基に判断されるため、所得税法における実際の年間収入とは異なる基準が用いられます。
3. 年間の範囲と収入基準(その1)
健康保険法と所得税法で大きな違いが見られるのは、「年間の範囲」と「収入基準」に関する判断です。
所得税法上の扶養親族:所得税では、扶養親族の判定はその年の実際の年間収入に基づいて行われます。つまり、1月1日から12月31日までの収入が対象となり、すでに確定した収入が考慮されます。
健康保険法上の被扶養者:健康保険では、扶養の判定は「今後1年間の収入見込」に基づいて行われます。認定の際、もしくは扶養資格確認時には、今後1年間の収入見込を推定して判断するため、退職や就職などによる収入の変動を反映させた判断が行われます。
例えば、1月から5月まで200万円の給与収入があって6月に退職しその後収入がなくなった場合、所得税法ではその年の扶養親族とは認定されませんが、健康保険では退職日以降、被扶養者として認定されることになります。このように、所得税法上の扶養親族と健康保険法上の被扶養者が一致しないケースが生じることがよくあります。
4. 収入の範囲と判定基準(その2)
健康保険法と所得税法のもう一つの大きな違いは、「収入」の範囲に関する考え方です。
所得税法上の扶養親族:所得税法では、収入から給与所得控除などの必要経費を差し引いた後の「所得」が基準となります。非課税の通勤手当などは収入には含まれません。
健康保険法上の被扶養者:健康保険法では、収入の範囲が広く、課税・非課税にかかわらず、すべての継続的に得られる収入が基準となります。つまり、通勤手当や遺族年金、出産手当金、失業給付なども「収入」に含まれます。一方で、一時的な収入(例えば不動産の売却益など)は対象外です。
このように、健康保険法では経費控除前の総収入が基準となるため、所得税法とは異なる収入の取り扱いとなります。
5. 親族・家族の範囲
健康保険法と所得税法で親族や家族の範囲にも違いがあります。
所得税法上の扶養親族:所得税法では、「6親等内の血族と3親等内の婚姻によってできた親族」が扶養親族として認定されますが、必ずしも同居は必要ありません。扶養親族は戸籍上の親族であることが求められます。
健康保険法上の被扶養者:健康保険法では、被扶養者の範囲がもう少し狭く、例えば、直系尊属、配偶者、子、孫、兄弟姉妹が「基本」ですが、同居が必須となる親族(「基本」の親族に該当しない三親等以内の親族など)もあります。また、内縁の配偶者や事実婚の相手も、届出を出すことで被扶養者として認定されることがあります。
6. 夫婦共同扶養の考え方
健康保険法では、共働きの夫婦が子どもを共同で扶養している場合、扶養されている子どもは、どちらか一方(収入の多い方)の被扶養者として認定されます。例えば、長男が夫の被扶養者、次男が妻の被扶養者となることはできません。一方、所得税法では、夫婦がそれぞれ扶養親族を持つことが可能です。つまり、長男は夫の扶養親族、次男は妻の扶養親族というように、親ごとの扶養に分けることができます。
わかりやすく説明しても初見ではなかなか理解するのは難しいのではないでしょうか。ただでさえ労働力が不足(国力の低下)するなかで、扶養の上限金額(年収の壁)を目先アップさせて対応するよりも、壁そのものを無くしてあまねく公平に税(保険料)を負担する仕組み(一定以内の勤務に対して特典を与える仕組みの廃止)にすべきと考えるのですが、みなさまいかがお考えになりますか?
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