】流行りの社員紹介制度(リファラル制度)の落とし穴<社会保険労務士 石川宗一郎>

社員紹介制度、いわゆるリファラル採用とは、既存の従業員が知人や友人を紹介し、新たな人材を採用する仕組みです。人材確保が厳しい建設業や介護事業者などを中心に注目され、採用コストの削減や採用の質向上を期待して導入が進んでいます。本コラムでは、リファラル制度を導入する際の注意点や解決策を解説します。

メリット:効率性とエンゲージメントの向上

リファラル採用の大きな利点は、採用プロセスの効率化とコスト削減です。求人広告や人材紹介会社を利用する場合に比べて費用が抑えられ、選考も迅速に進みます。また、紹介者が企業文化を理解しているため、ミスマッチが減り、定着率向上が期待されます。

デメリット:公平性の課題やインセンティブによる歪み

一方、公平性の問題があります。社員の個人的なネットワークに依存するため、採用が特定の層に偏るリスクがあります。また、紹介者と被紹介者の関係が職場に影響を及ぼす可能性もあります。採用後、期待通りの能力を発揮してくれれば問題は起こりませんが、入社後に思ったような成果が上がらなかった場合、職場内の人間関係に軋轢が生じ、かえって離職者を増やす恐れもあります。

紹介であっても厳密な採用プロセスを行うことや、紹介者を採用可否に関与させないなどのルール設定が必要です。また、過度にインセンティブを強調すると、本来の採用基準を満たしていない人材を無理に紹介する可能性がある点にも注意しなければなりません。

運用や法的な側面での注意点

① キャッシュポイント(紹介インセンティブの確定タイミング)の明確化
リファラル制度でインセンティブが確定するタイミングを、紹介・面接時なのか、入社時なのか、試用期間終了後(本採用時)なのかなど、あらかじめ明確化しておくことでトラブルを防止できます。短期離職を想定して、試用期間終了時や入社1年後など、ある程度「定着した」と言える時期をキャッシュポイントに設定することも推奨されます。また、入社時と1年後に分けて支給するといった工夫も考えられるでしょう。

② 職業安定法の問題
職業安定法により、有料職業紹介事業者としての許可(免許)がなければ「業として他人の職業のあっせん」を行うことはできません。リファラル制度のインセンティブを無制限に与えてしまうと、この職業安定法に抵触するリスクがあります。「業」ではないことを明確にするために、インセンティブの回数を制限する方法(たとえば「紹介対象者は年に1名まで」といった制限を設ける)などが考えられます。また、インセンティブはあくまで賃金であるという性格を明確化するために就業規則で明記することも重要です。

③ 社会保険上の検討
・インセンティブを月次賃金処理とすべきか、賞与として取り扱うべきか
前項で言及したとおり、職業安定法に抵触させないためにもインセンティブは賃金として支給する必要があります。特に社会保険上の位置づけには注意が必要です。
インセンティブを月例給与の明細にただ載せるだけでは、社会保険上の問題が発生する可能性があります。最近の年金事務所は月例給与に含まれる一時金を「賞与」と判定する傾向が強く、リファラル制度のインセンティブが賞与と見なされる事例も出ています。そのため、インセンティブ支給の都度、賞与支払届を提出し、社会保険料を控除のうえ賞与として処理することをおすすめします。

リファラル制度は、うまく運用すれば採用活動の大きな助けとなります。しかし、公平性や法的リスク、インセンティブをめぐる社会保険の扱いなど、見落としがちなポイントに注意しながら設計・運用することが必要です。社員にも企業にもメリットがある制度とするために、導入時にはぜひ慎重な検討を行いましょう。

この記事を書いている人 
-Writer-

石川宗一郎

社会保険労務士/代表

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【略歴】昭和59 年生まれ、千葉県八千代市出身。東邦大学卒業。大学卒業後、インターネット業界で友人と起業。その後、浅山社会保険労務士事務所(現エフピオ)へ入社。社労士業の面白さにどっぷりハマる。

日々起こる人事や労務に関する相談対応、就業規則や賃金制度の策定、買収前調査(労務デューデリジェンス)などを担当。

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