】公務員は給料上がって羨ましい、では済みません<社会保険労務士 成田雄大>

 毎年8月、人事院勧告により国家公務員の給与について改定勧告がなされます。本年は月給の引き上げ幅が平均3.62%アップ、ボーナスが4.6か月⇒4.65か月へアップ、その他手当の金額変更についても盛り込まれています。
 人事院勧告とは、公務員は労働基本権に制約があるため、その代償措置として国の機関である人事院が内閣と国会に国家公務員の給与や勤務条件に関して改定を勧告するものです。勧告を受けて、国会で承認された上で確定となりますが、基本的には人事院勧告通りの改定内容となります。また、地方公務員についても自治体ごとにこれに準じて改定されます。
 毎年ニュースで流れるたびに、単に公務員給与の上昇・下落だけでとらえられがちですが、民間企業へも及ぼす影響も多々あるためここでご紹介します。

1.公務に関連する分野への影響

 特に保育士については国の定めた公定価格を基に運営費の補助がされ、人事院勧告を受けて公定価格のうち人件費部分を見直すため、賃金アップにほぼ直結します。(認可保育施設等)
 また、福祉、教育、医療分野を中心に、公務員と民間企業の双方がサービスを提供する業界においては人材獲得で競合相手となるため、公務員の賃金アップを受けて自社の待遇の見直しを迫られる可能性があります。
 特に公務員は中途採用が最近は広まりつつあるもののまだまだ新卒採用中心であるため、新卒採用を行っている企業では特に競合相手として意識され、待遇面に限らず魅力を打ち出していく必要性が高まると考えられます。
 もちろん、求職者は待遇面だけではなく仕事内容、社風、将来性などあらゆる内容から判断するため、自社の競合相手に公務員がなりうるかどうかを踏まえて採用戦略を練る必要があると考えます。

2.賃金、手当への影響

 賃上げ交渉等で、公務員がこれだけ上がったから、ということで交渉材料となったり、企業の賃金制度の設計の際に目安となったりすることがあります。
 手当面では、国家公務員の手当の内容をベンチマークとしている企業も数多く存在します。過去にも国家公務員の配偶者手当を縮小し子への手当を拡充した際に、民間企業もこれに追随する動きを見せるなど、インセンティブとなり得ます。

3.交通用具利用者の通勤手当非課税上限額への影響

 本年の人事院勧告の中で、自動車や自転車などの交通用具を使用している人についての通勤手当についても引き上げとなりました。これに伴い、通勤手当の非課税上限額も変更されることが予想され、国税庁HPにもその可能性について記載されています。
過去には平成26年にも同様に国家公務員の通勤手当引き上げがあり、それに合わせて、通勤手当の非課税部分の上限額が遡りで法改正されているため、今後給与計算や年末調整で対応に迫られる可能性があります。

 以上、人事院勧告から受ける一般的な影響と、本年度特有の影響についてまとめてみました。最低賃金の上昇とも重なり、なかなか厳しい情勢ではありますが人事院勧告の動向についても注視し、採用戦略や待遇面の見直し、その他法改正含め適切に対応できるよう備えが必要と考えます。

この記事を書いている人 
-Writer-

成田雄大

社会保険労務士

【略歴】平成元年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒業。
国家公務員・地方公務員として、霞が関のビル群から市民窓口のカウンターまで、行政の最前線を渡り歩く。もっとお客様に近いところで働きたい!という思いが募り、令和6年4月にエフピオへ。

現在は労務手続き全般を担当し、企業と働く人々を支える“縁の下の力持ち”として奮闘中。目指すは、カッチカチの社労士ではなく、柔らかく親しみやすい社労士。なお、見た目はジョイマンの高木寄り。ナナナナー!

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