【東京商工リサーチ掲載記事】労務管理におけるリスクの評価と対応― “うちは大丈夫”と思っていませんか? ―<社会保険労務士 山内啓史>
実は、労務トラブルの多くは、会社の規模とは関係なく起こるものです。
たとえば、
• 給与の計算ミスで従業員から問い合わせが来た
• 社員の契約更新を忘れてトラブルになった
• 残業時間が正しく管理できていなかった
こうしたことは、どの会社でも起こりうる「労務リスク」です。
今回の記事では、「リスクって何?」「どう対策すればいいの?」という方にも分かりやすく、労務管理のリスクを“見える化”し、“防ぐ仕組みを作る”考え方をお伝えします。
1.そもそも「リスク評価」って何をするの?
リスク評価とは、
「どんなトラブルが起こりそうかを洗い出し、その中でどれが特に危ないかを考えること」です。
会社で起こりやすい労務トラブルは、次のようなものがあります。
| 分類 | 具体的なトラブル例 | 起きたときの影響 |
| 労働時間 | 残業の申告漏れ、36協定違反 | 是正勧告・未払い請求・信用低下 |
| 賃金・手当 | 固定残業代や手当の誤計算 | 過去分の遡及支払い・訴訟リスク |
| 契約管理 | 更新忘れ・同一労働同一賃金対応不足 | 不当労働行為・紛争リスク |
| ハラスメント | 相談対応の遅れ・放置 | 損害賠償・離職・評判悪化 |
| 安全衛生 | 長時間労働・健康診断未実施 | 労災認定・行政指導 |
このように、リスクは「どこにでもある」ものです。
重要なのは、「リスクがあることに気づく」こと。
その上で、次のように考えます。
① 起こる可能性が高いか?(リスクが顕在化する頻度)
② 起こったら会社にどれくらい影響があるか?(顕在化した時の影響度)
この2つを掛け合わせて整理すると、優先的に対策すべきリスクが見えてきます。
③ ①×②=重要度
たとえば「36協定違反」や「未払い残業」は、どの会社でも起こりやすく、影響も大きいため、最優先でチェックが必要です。
2.リスク対応:見つけたリスクをどう防ぐか?
リスク対応とは、簡単に言えば「起きる前に手を打つ」「起きた時に慌てないよう備える」ことです。
会社でできる対応策は、特別なことではありません。
“日常の中で確実にできること”を仕組みにしておくことが大切です。
よくある労務リスクと対応例
| リスク | 対応例 |
| 残業の把握があいまい | 打刻データを毎月チェック/36協定の残業上限を社内周知 |
| 給与計算ミス | 担当と確認者を分けて二重チェック/ソフトの自動計算機能を活用 |
| 契約更新忘れ | 契約期限が近づいたら自動で通知されるよう管理表を整備 |
| ハラスメント対応 | 社内・外部相談窓口を設置/相談内容の記録を残すルールを作る |
| 健康診断未実施 | 年1回のスケジュールをあらかじめ決め、受診結果を一覧で管理 |
こうした仕組みを整えることで、
「人が変わっても同じように運用できる」=ミスが起こりにくい会社になります。
また、トラブルが起きてしまった場合も、
「なぜ起きたのか」「再発しないために何を直すか」を話し合うことが重要です。
“改善を続ける会社”ほど、信頼と働きやすさが育ちます。
3.リスク管理は「守り」ではなく「信頼づくり」
リスク管理というと、何か難しいルールや監査のように感じるかもしれません。
しかし本質は、“社員も経営者も安心して働ける環境づくり”です。
労務トラブルを減らすことは、
• 社員のモチベーションを高め
• 採用の魅力を上げる
リスク管理を行い、リスクへの対応を明確にすることで
• 経営者の判断をスムーズにし、
• トラブル発生時のダメージを最小限に抑える
つまり、「働きやすく、信頼される会社」をつくることにつながります。
どんな会社でもリスクはゼロにはできません。
だからこそ、「気づく・防ぐ・見直す」というサイクルをまわすことが大切です。
4.まとめ:小さなチェックが、大きなトラブルを防ぐ
1.現状を見える化する
まずは自社でどんな労務リスクがあるかを洗い出す(勤怠・給与・契約など)。
2.優先順位をつける
起こりやすく影響が大きいものから順に対応を考える。
3.仕組みで防ぐ
チェック表・ルール・管理システムなどを使い、“人任せにしない”仕組みにする。
これらを少しずつ続けるだけで、労務管理の安心度は格段に上がります。
リスク管理は“特別な仕事”ではなく、会社を守る日常の習慣です。
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