労働基準監督署等が外国人技能実習生の実習実施者に対して行った令和5年の監督指導、送検等の状況の公表がありました。/令和6年7月31日、厚生労働省労働基準局監督課

1.技能実習生雇用の現実―中小企業経営者が直面するリスクとその対策

中小企業の経営者の皆様の多くが、労働力不足の解消や国際的なビジネス展開の一環として、技能実習生を受け入れていることと思います。技能実習制度は、日本の技術や知識を海外に伝えるだけでなく、国内での生産活動を支える重要な制度です。しかし、この制度を適切に運用しないと、企業にとって重大なリスクを伴うことをご存じでしょうか?
今回、私は技能実習生を受け入れる中小企業経営者の皆様に対し、警鐘を鳴らすべく、労働基準監督署の監督指導と送検の実態についてお伝えしたいと思います。

2.違反事例の増加―知らぬ間にリスクが迫る

令和5年、全国の労働基準監督署が実施した監督指導では、10,378の事業場のうち73.3%にあたる7,602箇所で労働基準関係法令違反が認められました。この数値は年々増加しており、多くの事業者が「うちは大丈夫」と思っている間に、実は深刻な違反を犯している可能性があることを示しています。
<主な違反事例>
第1位 安全基準/使用する機械等の安全基準 2,447件 23.6%
第2位 割増賃金の支払い          1,709件 16.5%
第3位 健康診断結果についての医師等からの意見聴取 1,685件 16.2%
第4位 労働時間              1,527件 14.7%
第5位 年次有給休暇            1,303件 12.6%

3.送検事例―企業に降りかかる法的リスク

さらに深刻なのは、違反が重大かつ悪質と判断された場合、企業は送検されるリスクに直面することです。令和5年には、27件(労働基準法・最低賃金法違反14件、労働安全衛生法13件)の事業場が技能実習生に関連する労働基準関係法令違反で送検されました。この中には、安全基準の未遵守や、違法な時間外・休日労働を強いた事例が含まれています。送検された企業は、法的な制裁を受けるだけでなく、社会的な信頼も失いかねません。
<送検例>
自動車整備工場では、技能実習生に対して1か月に100時間を超える違法な時間外労働を行わせたうえ、監査の際には虚偽のタイムカードを提出していました。このような行為は、法令違反の隠蔽を図るものであり、悪質なものとして送検されました。

4.中小企業経営者として取るべき対策

では、中小企業経営者として、これらのリスクにどう対応すべきでしょうか?
①法令遵守の徹底
まず、労働基準法令の理解と遵守を徹底することが不可欠です。特に、安全基準や労働時間管理、賃金支払いに関する法令は、違反が多く見られる分野です。専門家による定期的な監査や、社内教育を通じて、従業員全体の法令遵守意識を高めることが重要です。
②適切な労働環境の整備
技能実習生を含む全ての従業員が安全で健康的に働ける環境を整えることが必要です。業務の集中や偏りを避け、労働時間が適正に管理されるようにするためには、業務フローの見直しや、適切な人員配置が求められます。
③外部機関との連携強化
外国人技能実習機構といった外部機関との連携を強化し、法令違反の予防に努めることも重要です。監査や調査の際には、積極的に協力し、改善が必要な点があれば即座に対応する姿勢を持つことが、長期的な企業の安定につながります。

最後に

技能実習生は、企業にとっての貴重な人材資源であり、適切な運用によって大きな成果を生むことができます。しかし、法令を軽視したり、適切な管理が行われなかったりすれば、企業にとって大きなリスクとなります。中小企業経営者の皆様には、技能実習生の受け入れるにあたり、常に法令を遵守し、健全な労働環境を提供する責任があることを、改めて強調したいと思います。
技能実習生を受け入れている、またはこれから受け入れを検討している中小企業の皆様にとって、労務管理の見直しや改善のきっかけとなれば幸いです。
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