2024中小企業の賃上げ動向をみる/「中小企業の賃金改定に関する調査」日本商工会議所2024.6より

日本商工会議所の2024年賃金改定に関する調査結果が公表されました。2024年の中小企業における賃上げ動向を理解するため、集計結果をもとに解説します。

1. 全体的な賃上げ状況

2024年度に「賃上げを実施予定」と回答した企業は74.3%に達しました。この数字は、2024年1月の調査結果(61.3%)から13.0ポイント増加しており、多くの中小企業が賃上げを実施する方向に進んでいることがわかります。
・前向きな賃上げ: 40.9%(業績が好調、または改善しているため賃上げを実施)
・防衛的な賃上げ: 59.1%(業績が改善しない中、賃上げを実施)

2024年度の賃上げ実施予定企業の割合(全体集計)

賃上げ実施の予定割合
前向きな賃上げ40.9%
防衛的な賃上げ59.1%

2. 従業員規模別の賃上げ状況

従業員数20人以下の企業においては、賃上げを実施する企業の割合は63.3%と、全体平均(74.3%)よりも低くなっています。また、「防衛的な賃上げ」の割合が64.1%と高く、小規模事業者にとって賃上げは依然として難しい状況であることが示されています。

●2024年度の賃上げ実施予定企業の割合(従業員規模別)

従業員規模賃上げ実施予定防衛的な賃上げ
全体74.3%59.1%
20人以下63.3%64.1%

3. 業種別の賃上げ状況

業種別に見ると、賃上げを実施予定の企業の割合は、卸売業(81.5%)、製造業(80.2%)が最も高く、一方で医療・介護・看護業(52.5%)が最も低い結果となりました。
・高い賃上げ率を示した業種: その他サービス業(4.57%)、小売業(4.01%)
・低い賃上げ率にとどまった業種: 運輸業(2.52%)、医療・介護・看護業(2.19%)

●業種別の賃上げ実施予定企業の割合

業種賃上げ実施予定前向きな賃上げ防衛的な賃上げ
卸売業81.5%55.8%44.2%
製造業80.2%54.9%45.1%
医療・介護・看護業52.5%27.8%72.2%

4. 正社員とパート・アルバイトの賃上げ額・率

正社員の賃上げ額の加重平均は9,662円、賃上げ率は3.62%でした。一方、従業員数20人以下の企業では8,801円、3.34%と若干低めです。業種別では、その他サービス業が4.57%と最も高く、医療・介護・看護業が2.19%と最も低い結果となりました。
パート・アルバイトについては、賃上げ額の加重平均が37.6円、賃上げ率が3.43%であり、小規模事業所においてはこれが43.3円、3.88%となっています。特に医療・介護・看護業では4.86%と高い賃上げ率を示しています。

●正社員とパート・アルバイトの賃上げ額・率(全体)

区分賃上げ額(円)賃上げ率
正社員(全体)9,662円3.62%
正社員(20人以下)8,801円3.34%
パート・アルバイト(全体)37.6円3.43%
パート・アルバイト(20人以下)43.3円3.88%

5. 正社員の賃上げ額・率(業種別集計)

①その他サービス業(賃上げ額: 11,883円、賃上げ率: 4.57%)
この業種は、賃上げ率が最も高い結果となりました。サービス業の一部では景気回復やサービスの多様化が進んでおり、それに伴い賃上げ余力が高まっていることが影響しています。また、人材確保の競争が激化している業種でもあり、競争力を維持するための積極的な賃上げが行われています。

②小売業(賃上げ額: 10,239円、賃上げ率: 4.01%)
小売業では、比較的高い賃上げが実施されています。物価上昇や消費者ニーズの多様化に伴い、業績が堅調な企業が多く、特に優秀な人材を引き留めるための賃上げが進んでいます。しかしながら、地域や店舗規模によっては業績に差があり、一律の賃上げが難しいといった課題もあります。

③情報通信・情報サービス業(賃上げ額: 10,471円、賃上げ率: 3.69%)
情報通信・情報サービス業では、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進やテクノロジー需要の増加により、業績が堅調な企業が多く見られます。そのため、業界全体としても比較的高い賃上げが実現しています。しかし、業界内での格差も大きく、特定分野でのスキルを持つ人材の賃金が急上昇している一方で、旧来の技術に依存している企業では厳しい状況が続いています。

④卸売業(賃上げ額: 10,345円、賃上げ率: 3.67%)
卸売業は、多くの製品を扱うことから、価格交渉力があり、比較的安定した業績を維持しています。この安定性が、賃上げの基盤となっており、特に規模の大きな企業では従業員に対する還元が進んでいます。

⑤製造業(賃上げ額: 8,954円、賃上げ率: 3.40%)
製造業では、賃上げ額と率が他の業種に比べて低い結果となりました。これは、原材料費の高騰やエネルギーコストの増加が企業の収益を圧迫しているためです。また、グローバル競争が激しい業界であり、賃上げを行う余力が限られている企業が多いです。

⑥宿泊・飲食業(賃上げ額: 8,407円、賃上げ率: 3.37%)
宿泊・飲食業は、コロナ禍からの回復途上にあり、一部の企業では業績が改善しているものの、全体的にはまだ厳しい状況が続いています。そのため、賃上げ額は他の業種と比べて控えめとなっています。しかし、顧客の回復を見据えて、従業員の確保とモチベーション向上を図るための賃上げが徐々に進んでいます。

⑦金融・保険・不動産業(賃上げ額: 9,805円、賃上げ率: 3.31%)
金融・保険・不動産業では、金融市場の不安定さが賃上げに影響を与えています。特に低金利政策や市場の変動が収益に影響を及ぼし、賃上げ額も業界内で二極化している状況です。規模の大きい企業では高めの賃上げが見られる一方、小規模な企業では賃上げに慎重な姿勢が見られます。

⑧建設業(賃上げ額: 9,405円、賃上げ率: 3.29%)
建設業では、人手不足が深刻化しており、賃上げが進んでいます。ただし、コスト増加や労働環境の厳しさが収益を圧迫しており、特に中小規模の建設業者では賃上げ余力が限られている状況です。

⑨運輸業(賃上げ額: 5,162円、賃上げ率: 2.52%)
運輸業は、調査結果の中で最も低い賃上げ率となりました。燃料費の高騰や物流の停滞、さらには労働力不足が深刻な影響を及ぼしています。これらの要因により、運輸業は業績が厳しい状態が続いており、賃上げを抑制せざるを得ない状況にあります。

⑩医療・介護・看護業(賃上げ額: 5,477円、賃上げ率: 2.19%)
医療・介護・看護業も、運輸業と並んで賃上げ率が低い業種です。人材不足が深刻化している一方で、予算の制約や報酬制度の硬直性が賃上げを難しくしています。また、公共サービスの一環としての性質上、賃上げに対する財政的支援の不足が賃上げ抑制の要因となっています。

●業種別の正社員賃上げ額・率(2024年)

業種賃上げ額(円)賃上げ率(%)
その他サービス業11,883円4.57%
小売業10,239円4.01%
情報通信・情報サービス業10,471円3.69%
卸売業10,345円3.67%
製造業8,954円3.40%
宿泊・飲食業8,407円3.37%
金融・保険・不動産業9,805円3.31%
建設業9,405円3.29%
運輸業5,162円2.52%
医療・介護・看護業5,477円2.19%

まとめ

2024年の賃上げ動向から、中小企業が抱える現実的な課題が浮き彫りになりました。賃上げを実施する企業が増加する一方で、特に小規模事業所では依然として厳しい状況にあります。経営者や人事担当者は、賃上げ以外の方法、例えば福利厚生の充実や業務効率化を通じて、従業員のモチベーション維持と企業の競争力強化を図ることが求められます。

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