2026.02.09|
東京商工リサーチ掲載記事
社労士のボヤキ カスハラ対策と新入社員に求めるものの共通点 ~求めよ、さらば与えられん~<社会保険労務士 津田千尋>
この記事が公開される頃は、おそらく、2026年も1か月が過ぎた、2月頃。花粉の気配を感じつつ、年度末の繁忙と並行して日々のお仕事が進んでいる頃でしょう。最近、顧問先のご担当者の方との相談でよく使うフレーズがあります。それが冒頭の「求めよ、さらば与えられん」です。働き方改革やハラスメント対策など、企業側が“受け身”で対応しがちな昨今のテーマこそ、「企業が何を・どんな人材を・求め、何を基準・ゴールとするのか」を明確にすることで、解決の糸口が見えてきます。
1.採用・試用期間における「求めよ、さらば与えられん」
採用難の時代、「採用できただけでありがたい」という声も聞かれます。しかし、新入社員を“お客様扱い”してしまうと、試用期間中の教育が曖昧になりがちです。
実際、リアルの労務相談で多いのが「能力不足なのでどうしたらよいだろうか」というお悩みです。丁寧に聞いていくと、入社前後の面談でも、試用期間中においても、求める基準やゴールが示されていない、または途中から基準やゴールを示そうとするケースが多く見られます。最初のスタートの段階で、ゴールが共有されていなければ、教育担当の現場は大混乱し、新入社員は迷走してしまいます。企業が「求めるもの」を明確に伝えることで、新入社員も自分が何を達成すべきか理解でき、企業側も新入社員側も、双方にとって納得感のある試用期間になります。
2.入社3年目までの離職と「ゆるブラック」にみる「求めよ、さらば与えられん」
毎年10月に厚生労働省が発表する、新規学卒就職者の就職後3年以内離職率データでは、依然として3割超の状態にあります。前述の試用期間をなんとか乗り越えても、そのあと「ゆるブラック」による静かな退職が控えています。表面上は優しい上司、優しい職場でも、成長の基準や期待が示されない環境は、成長の機会を奪うことにつながります。「何を目指せばいいのか分からない」状態は、若手にとって大きな不安要因です。褒められるけれど、ミスをしても指導されない、という状態です。企業が求める姿勢や期待を明確に示すことで、「見てくれている」「ここで成長できる」という実感が生まれ、離職防止にもつながります。
3.カスハラ対策にも通じる「求めよ、さらば与えられん」
街中では、有人レジに「カスハラ防止ポスター」が掲示される光景が増えました。機械化、DX化が進む一方で、対面コミュニケーションの場が集中し、カスタマーハラスメント(カスハラ)が問題化しています。
ここでも重要なのは、企業が“お客様とは何か”を明確に示すことです。「すべてのお客様が神様」ではなく、侮辱的言動や過度な要求をする人は“お客様ではない”と明示することで、他のお客様にも従業員にも安心を提供できます。有人レジでの典型例として、混雑による待ち時間にイライラと腹を立て、店員へ「遅い」「使えない」と侮辱を繰り返す行為などは、ポスターが1枚あるだけでも抑止力となり、従業員、他のお客様を守る環境づくりにつながります。
4.さいごに
採用、育成、離職防止、カスハラ対策、これらは、一見別々のテーマに見えますが、共通するのは企業が「求めるもの」を明確に示すことです。
「求めよ、さらば与えられん」は、「企業が求める姿勢を示すことで、相手も応じられる環境が整う」という意味にも置き換えられます。企業が基準や期待を示すことで、新入社員は迷わず成長し、従業員は守られ、組織全体が健全に発展していきます。人事制度や、評価制度にももちろん通じる、共通概念です。
まずは、新入社員研修、カスハラ防止研修、評価制度の再構築など、みなさまの企業がいま求めるものを明確に示す、第一歩を踏み出してみませんか?