2026.02.24|
東京商工リサーチ掲載記事
離職票に「会社都合」と書いてほしいと言われたら応じるべきか?<社会保険労務士 石川宗一郎>
自己都合で退職する予定の社員から、「離職票を会社都合にしてほしい」と相談を受けたことがある経営者や人事担当者の方もいるかもしれません。
一見すると「困っているなら助けてあげたい」と思う話ですが、安易に応じると会社側に重大なリスクが発生します。
結論から言えば、退職理由が実態として自己都合であるなら、会社都合として処理すべきではありません。本記事では、社員が会社都合を望む理由と、企業が負うリスクを整理します。
なぜ会社都合を望むのか?
社員が「会社都合にしてほしい」と言う背景には、雇用保険(基本手当)の扱いがあります。
(1)貰える時期が1か月早くなる
俗に失業保険と呼ばれる雇用保険の基本手当は、失業後に職安窓口へ行き、離職票を提出し受給資格者としての決定を受けます。その日から給付対象とならない7日間の待機期間があります。自己都合退職の場合は、さらに原則1か月間の「給付制限期間」がありますが、会社都合である場合は、給付制限期間はなく8日目から基本手当の給付対象日となります。
(2)貰える期間が長くなる
会社都合退職は自己都合退職より受給できる基本手当の期間が長く設定されています

┗ 自己都合による離職者の基本手当の所定給付日数

┗ 倒産、解雇等による離職者の基本手当の所定給付日数
例えば35歳、雇用保険の被保険者であった期間が5年の人が離職し、基本手当を受給する場合、自己都合退職では90日間となりますが、会社都合の場合は180日間と倍になります。
このように会社都合による離職は給付内容が手厚く、退職後の生活資金を確保する目的で、社員側は会社都合を希望することがあります。しかし、これは社員側の事情であり、会社が便宜的に虚偽の理由で手続きをすることは別問題です。
雇用保険の不正受給に加担してしまうリスク
事業主が離職票に虚偽の記載を行った場合、不正行為として、離職者と連帯して不正に受給した基本手当の返還を命じられるリスクがあります。ただ受給した金額を返還するだけではなく最大で受給額の2倍にあたる額の納付を命じられる可能性もあります。例えば100万円の不正受給をした場合、100万円の返還だけではなく、さらに200万円の納付をしなければなりません。刑事事件として告発されるリスクもあります。
雇用関係の助成金の不支給・返還リスク
雇用保険料を原資とした助成金は、会社都合の離職が生じるとペナルティを科していることがあります。例えばキャリアアップ助成金・正社員転換コースでは、助成金対象となる労働者を正社員化する前後6か月に会社都合の離職がある場合、助成金が不支給となります。
不当解雇と請求を受けるリスク
会社都合として処理することは、労務トラブルの火種にもなります。
離職票に会社都合と記載するということは、外部的には「会社が退職を主導した」「退職勧奨や解雇」と受け取られる余地が生まれます。つまり、会社が「会社都合」と認めた証拠のように扱われる可能性があります。
その結果、後日になって社員が「実は解雇だった」「退職を強要された」と主張し、解雇予告手当の請求や不当解雇としての金銭請求や訴訟に発展するリスクがあります。
会社としては善意で応じたつもりでも、書類に残る内容は後から覆せません。特に退職後のトラブルは、労力もコストも大きくなります。
以上のように良かれと思って退職事由の修正に応じると思わぬ落とし穴に落ちることがあります。従業員に依頼されても事実以外は証明できないとはっきりと伝えることをおすすめします。