2026.03.23|
東京商工リサーチ掲載記事
復職させるべきか、待つべきか― メンタル休職者の復職判断の難しさ<社会保険労務士 小峰健>
新年度は職場環境や人間関係の変化により、メンタル不調が顕在化しやすい時期です。厚生労働省「令和6年労働安全衛生調査(実態調査)」によると、仕事や職業生活に強い不安やストレスを感じている労働者は約7割(68.3%)に上ります。また、同調査では、過去1年間にメンタルヘルス不調で連続1か月以上の休業者が出た事業所の割合は約1割(10.2%)と決して小さい数字ではありません。
近年は、相談窓口設置や産業医選定等の「制度」整備は進んでいるといえます。しかし、個々の事情が異なる休職者対応は、今後も多くの企業が頭を悩ませる重要課題でしょう。
そこで今回は実際の事例を元に「復職可」の診断書が出された場合の企業判断を考えます。
事例の概要
ある企業で、メンタル不調により休職していた社員から休職期間満了直前に「復職可」の診断書が提出されました。復職前の産業医面談で睡眠が十分に取れていない状態が確認されていました。企業としては復職可否について悩みましたが、復職意思の強さを汲み、「短時間勤務」「残業なし」という条件付きで復職を認めました。しかし、復職後しばらくして体調は再び悪化し、最終的には自己都合退職という結果になりました。
企業の悩みどころと適切な対応
「復職可の診断書が出たら、必ず復職させるのか」と悩まれる事も多いでしょう。しかし、診断書はあくまで判断材料の一つであり、重要なのは復職の最終決定権は企業にあるという点です。
多くの企業では規程上「従前の業務ができる程度の回復」と定めていますが、これは「復職後に安定して働き続けられるか」という視点が重要です。産業医の意見、睡眠状況、通勤の可否や一定時間の業務継続が可能かといった総合的な判断が必要です。
尚、短時間勤務等の復職プログラムの活用も有効ですが、必ず期限を設けましょう。元の業務に戻れない状態が長期化し、新たな悩みの種を生み出しかねません。
加えて見落とされがちなのが、復職者の受け入れ体制です。就労制限がある場合、その分の業務を上司や周囲のスタッフが担う事になります。「本人への配慮」に意識が向きがちですが、職場全体の負担は大きくなります。その結果、別のストレスが生まれ、職場環境の悪化や新たなメンタル不調者が生まれる事もあります。更に、総合的な調整を行う人事担当者のストレスも小さくありません。守秘義務の観点から相談先も限られる場合が多いからです。その為、セルフケア教育の推進も重要な取り組みといえます。復職対応は、全ての関係者と職場環境のバランスを見ながら進める事が重要です。
まとめ
企業には従業員に対して安全配慮義務があります。近年、職場のメンタルヘルス対策はますます重要性を増しています。ストレスチェック制度についても、これまで義務対象外であった従業員50人未満の事業場にも対象を拡大する(施行日は未定)ことが決まっています。企業規模を問わずメンタルヘルス対策の強化が求められる時代になっています。
今回の事例では、企業は本人の意思を尊重し一定の配慮を行いました。しかし、結果を見ると「復職させること」自体が必ずしも最善の選択とは限らないという難しさも感じます。
メンタル不調からの復職対応では「復職可」という言葉だけにとらわれるべきではありません。また、復職基準の明確化・復職後の想定リスクへの対応整理が重要です。それは企業を守るためだけでなく、結果として本人の再発や再休職を防ぐ事にも繋がります。
「復職可」という診断書は、復職判断のゴールではない。あくまでスタート地点に過ぎないのです。