】定年後再雇用における人事実務の留意点<社会保険労務士 松井碧城>

 敬老の日にあわせて発表された統計によれば、65歳以上の就業者数は930万人に達し過去最多となりました。高齢者が働く割合も年々上昇しており、もはや「特例」ではなく「当たり前」となりつつあります。労働力人口が減少するなか、高齢者の就労は社会と企業の双方にとって不可欠な要素です。では、会社はどのような視点で定年後再雇用を考えるべきでしょうか。

法律が求める最低限の対応

 まず押さえるべきは法的義務です。企業には65歳までの雇用確保措置が義務づけられ、70歳までの就業機会確保は努力義務とされています。定年に達した時点で労働契約は終了するため、再雇用は新しい契約として締結し直す必要があります。有期雇用が一般的ですが、契約期間や更新基準を就業規則や契約書に明記しておくことは欠かせません。

 さらに注意したいのが「同一労働同一賃金」です。高年齢者を再雇用する際、賃金を下げるケースが多くみられますが、その差が合理的かどうかを厳しく問われます。仕事内容や責任範囲、配置転換の有無といった要素に基づかない一律の減額は、不合理な待遇差として争われるリスクがあります。実際、裁判例でも「実態としての職務や役割の違い」が説明できなければ、差を設けることは正当化されにくいとされています。したがって、企業は「なぜこの処遇なのか」を説明できる資料や基準を用意し、本人にも納得感を持ってもらえるようにしておく必要があるのです。

再雇用を“戦力”として活かす

 再雇用を単に「人件費を抑えて人手を確保する」ために用いるのは得策ではありません。熟練者の経験は、現場改善や品質管理、顧客対応といった場面で大きな力を発揮します。とりわけ、後進の育成や安全衛生のチェック役としての存在感は大きく、若手社員の定着やスキルの底上げにも直結します。経営層が再雇用を「コスト」ではなく「投資」と位置づけ、役割を再設計することが、組織全体の競争力を高めることにつながります。

健康と安全への配慮を制度化する

 高齢者の就労にあたっては、健康と安全の配慮が欠かせません。年齢を重ねれば体力や持病リスクが高まるため、短時間勤務や軽作業への転換といった柔軟な働き方の導入が必要になります。医師の意見を反映した就業配慮や定期健康診断の徹底は、従業員本人の安心につながるだけでなく、労災リスクの低減にも直結します。健康や安全を「個人任せ」にせず制度の一部に組み込む姿勢が、企業全体の信頼性を高めます。

実務チェックリストで抜け漏れ防止

 制度を整備する際には、次のような実務チェックを行うと安心です。

1.規程整備:就業規則や再雇用規程に対象者、契約期間、更新基準を明記する
2.契約書類:労働条件通知書・雇用契約書を再交付し、更新条件を明文化する
3.賃金設計:仕事内容や責任に応じた水準を設定し、合理性を説明できる資料を準備する
4.役割付与:後進育成、安全管理、顧客対応など高齢者ならではのポジションを設ける
5.保険手続き:雇用保険・社会保険の適用可否を再確認し、必要な手続きを行う
6.面談運用:契約更新前に面談を行い、書面で記録・説明を残す

 こうしたチェックを仕組み化しておくことで、トラブルを未然に防ぎ、従業員の安心感も高まります。

「敬う」と「活かす」を両立させる

 高齢者の就労が増え続ける今、企業は単なる法令遵守にとどまらず、再雇用を戦略的に運用することが求められます。合理的な待遇設定と、熟練者の力を活かす役割設計、健康と安全への配慮、そして確実な実務運用。この4つを柱とすることで、高齢人材はコストではなく企業の成長を支える戦力となります。「敬う」と「活かす」を同時に実現する視点こそが、これからの持続可能な企業経営の鍵といえるでしょう。

この記事を書いている人 
-Writer-

松井碧城

社会保険労務士

【略歴】昭和58年生まれ、千葉県印旛郡出身。ライブハウスや舞台のステージング、個別指導による学習塾の教室長を経て、令和4年にエフピオ入社。
前職で多くの生徒と向き合ってきた経験を活かし、お客様の立場や状況にあわせた柔軟な対応を心がけています。労務全般の相談、給与計算、研修講師等を担当。

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