2026.01.13|
東京商工リサーチ掲載記事
人事制度の意義と運用面 ――賃金アップ時代に、あらためて考えたいこと<コンサルタント<本間一弥>
はじめに
近年、賃金アップや処遇改善への対応は、多くの企業にとって避けて通れないテーマとなっています。「世間的に賃上げの流れだから」「採用や定着のために必要だから」と判断を迫られる一方で、「なぜこの金額なのか」「誰を、どのような基準で上げるのか」を説明できず、悩む経営者も少なくありません。こうした状況の中で、賃金の判断に根拠を持たせる仕組みとして、人事制度の重要性があらためて高まっています。
1.人事制度は賃金判断の“説明材料”になる
人事制度は、大企業向けの形式的な仕組みではなく、会社の成長段階に応じて必要になる経営の道具です。社員数が少ないうちは経営者の感覚で判断できていたことも、人数が増えるにつれて、「なぜあの人は上がって、自分は上がらないのか」といった疑問が生まれやすくなります。人事制度は、賃金や昇給の判断に一定の基準を持たせ、社員に説明できる形にするための土台となります。
2.賃金アップの前提にあるのは“成長”の考え方
重要なのは、賃金を目的にしないことです。人事制度の本質は、会社としてどのような行動や成果、姿勢を大切にし、社員にどのような成長を期待しているのかを明確にする点にあります。成果だけでなく、そこに至るまでの取り組みや挑戦を評価の視点に含めることで、社員は安心して成長に向き合いやすくなります。賃金は、その結果として位置づけられるものです。
3.成長と処遇が結びつくことで定着につながる
賃金水準を引き上げること自体は、人材確保の面で一定の効果があります。しかし、一律の賃上げだけでは、長期的な定着につながりにくいケースも見られます。自分の現在地や次に目指すステップが見え、「成長すれば処遇に反映される」という実感があってこそ、社員は将来を描くことができます。人事制度は、社員が会社の中で成長していく道筋を示す役割も担っています。
4.制度を活かす鍵は“運用の姿勢”にある
人事制度は、等級・評価・処遇を一体で考えることが基本ですが、機能しなくなる原因の多くは運用にあります。評価の理由を丁寧に伝えること、面談を通じて成長の方向性をすり合わせること、日常の声掛けで期待を示すこと。こうした積み重ねが、制度を単なるルールではなく、「社員の成長に寄り添う仕組み」へと変えていきます。
最後に
賃金アップが求められる時代だからこそ、「何となく上げる」のではなく、「成長と処遇をどう結びつけるか」が問われています。人事制度は、問題が起きてから慌てて作るものではありません。「そろそろ必要かもしれない」と感じた今こそが、最適なスタート地点です。小さく始め、運用を通じて磨いていくことで、人事制度は賃金判断の根拠となり、会社と社員双方の成長を支える軸として機能していきます。