最高裁「定年時の6割未満の基本給は不合理」破棄し、「基本給格差はその性質で評価を」

1)定年後の基本給格差について最高裁判所初判断

定年後の再雇用をめぐり、その仕事内容が変わらないのに基本給を大幅に減額されたことが不当かどうか争われた訴訟で、最高裁は「不合理かの判断には、基本給の様々な性質を検討すべき」旨の判断を示し、審理を高裁裁判所に審理を差し戻しました。

この訴訟は、名古屋自動車学校の元社員が定年後嘱託として再雇用された際に仕事内容は定年前と変わらないのに、月額16万円~18万円だった基本給が4~5割ほどに減ったことに端を発しています。

名古屋地裁、名古屋高裁においては、「労働者の生活保障の観点からも看過しがたい水準」として、正社員時の基本給の6割を下回る部分を「不合理」と判断し、その差額の支払いを命じました。

しかしながら、この判決において正社員や再雇用者の給与の性質や目的について十分に考慮されていないとして、最高裁は高裁に検討を尽くすよう指示したものです。

正社員の基本給について、勤続年数に応じた勤続給だけではなく、仕事の内容に応じた職務給、能力を踏まえた職能給の性質もあるとみる余地があると指摘。再雇用の場合は役職に就くことも想定されないことなどから、「正社員と異なる性質や支給の目的がある」としました。

定年後の再雇用時の雇用慣行として、一定額の給与減額をする企業においては極めて注目すべき事件で、この後の判決の行方が気になります。ただ、最終的な決着を待たずとも、格差が不合理かどうかは、賃金項目ごとにその支給の趣旨を考慮すべきとの2018年の別訴訟の最高裁判決で、「手当」についてはすでに検討、対応済みの企業様も多いと思われますが、基本給においてもこの枠組みで対応していかなければならないことが明らかになりました。

正社員と再雇用時の基本給の性質や趣旨目的(あるいは賃金制度としての違い)について、明確にしている企業様はほとんどないと予想されますので、人事担当者としては頭が痛い課題となることが必至です。

2)現状の定年後の継続雇用時の実態

とはいえ、よそはどうなの?というのも気になるところ、厚生労働省等の統計結果からその現実を合わせてお知らせいたします。

<厚生労働者/「高年齢者の雇用状況報告」2022>

★雇用確保措置(65歳までの継続用)

従業員規模①定年廃止②定年引上げ③継続雇用制度
300人以上0.6%16.1%83.2%
31~300人3.3%25.0%71.7%
21~30人6.4%29.5%64.1%
総   計3.9%25.5%70.6%

<労働政策研究・研修機構「高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)2020>

★フルタイム勤務・継続雇用者の61歳時点の平均的な賃金水準(業種別)

※60歳直前の賃金を100とした場合の指数

業 種割  合(%)
~6060~7070~8080~9090~平均値
建設業2.412.814.418.832.781.8
一般機械器具製造業8.022.920.216.017.675.3
輸送用機械器具製造業5.321.225.810.618.574.6
精密機械器具製造業6.016.227.49.419.775.5
電気機械器具製造業9.214.521.711.822.475.1
その他製造業7.819.424.411.021.174.4
電気・ガス・熱供給・水道業4.237.516.720.812.571.5
情報通信業5.99.413.54.714.175.1
運輸業4.78.511.513.041.284.0
卸売・小売業9.320.219.011.916.372.9
金融・保険業12.514.316.15.414.372.1
不動産業3.310.018.36.728.380.1
飲食業・宿泊業4.38.912.314.026.481.2
医療・福祉4.17.311.915.537.584.7
教育・学習支援業12.917.09.510.425.775.6
サービス業5.112.912.211.826.379.5
その他6.710.06.716.730.081.6
※無回答は記載省略

<高齢・障害・求職者雇用支援機構「60歳以降の社員に関する人事管理に関する調査」2017>

※「定年年齢等の区分」は65歳までの雇用確保措置の内容のこと

★60歳前後の基本給の決め方の類似性(%)

定年年齢等の区分全員同じ一部同じ異なる
継続雇用65歳以下12.07.180.1
継続雇用66歳以上22.710.766.2
定年65歳以上69.67.021.8

★60歳後の基本給の決め方(60歳前と異なる場合)(%)

定年年齢等の区分一律定額一定比率資格・職位職種・仕事
継続雇用65歳以下15.831.625.824.3
継続雇用66歳以上16.1124.124.632.0
定年65歳以上13.216.531.934.1
※「一定比率」は60歳時点の基本給の一定比率、「資格・職位」は60歳時点の職能資格や職位に応じた金額、「職種・仕事」は職種や仕事内容に応じた金額を意味する。

★60歳以降最初に支給する基本給の水準(60歳直前との比較)(%)

定年年齢等の区分~50%50%~60%~70%~80%~90%~100%~平均
継続雇用65歳以下6.516.825.221.913.06.77.971.6%
継続雇用66歳以上2.310.520.120.616.710.918.078.7%
定年65歳以上0.91.63.88.27.97.368.094.4%

★60歳後の昇給機会の有無(%)

定年年齢等の区分全員にある一部にある全員ない
継続雇用65歳以下10.815.073.6
継続雇用66歳以上15.021.263.2
定年65歳以上44.317.736.4

★60歳後の賞与・一時金の支給対象(%)

定年年齢等の区分全員が対象一部が対象全員が対象外
継続雇用65歳以下60.414.923.3
継続雇用66歳以上58.320.619.5
定年65歳以上76.67.912.7

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浅山雅人

社会保険労務士/代表

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【略歴】昭和38年生まれ、京都市出身。慶應義塾大学法学部卒業。平成7年11月にエフピオの前身である浅山社会保険労務士事務所を設立。

経営者の皆様のパートナーとなること、エフピオをお客様の手本となるような立派な会社にすることを目指しています。夢はエフピオをもっともっと広め、千葉のみならず全国、世界に知ってもらえる存在にすることです!

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再雇用 , 判例・裁判例 , 定年 , 裁判 , 高齢者雇用 ,
   

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