令和5年4月より、デジタル給与制度が開始します

令和4年10月26日、厚生労働大臣の諮問機関である厚生労働省労働政策審議会で、電子マネーによる給与支払制度を盛り込んだ、労働基準法の省令改正案が了承されました。令和5年4月以降、電子マネーによる給与支払制度が開始します。

1.現行法

 労働基準法上、全額現金払いを原則とし、労働者ごとに同意を得た場合は、金融機関への振込み、 証券総合口座などの当該労働者の預り金への振込みにより支払うことが認められています。実務上は、金融機関への振込みを行う企業がほとんどです。

2.改正概要

 今回の改正では、キャッシュレス決裁の普及や送金サービスの多様化が進んでいることを踏まえ、金融機関、証券会社などに加え、電子マネーの運営会社(以下「資金移動業者」といいます。)の口座への支払いも可能となります。
 電子マネーでの支払いは、労働者の財産の保全、利便性の確保、資金移動業者の適格性などの観点から、一定の要件を満たすものとして厚生労働大臣の指定を受けた資金移動事業者の口座に限られます。
 本改正の対象となる資金移動事業者は、「第二種資金移動業」といって、100万円以下の取扱いまでしか認められていません。なお、当該口座への支払いは個別の労働者の合意が必要となります。


<指定に必要な要件>

  1. 賃金支払に係る口座の残高(以下「口座残高」という。)の上限額を 100 万円以下に設定していること又は 100 万円を超えた場合でも速やかに 100 万円以下にするための措置を講じていること。
  2. 破綻などにより口座残高の受取が困難となったときに、労働者に口座残高の全額を速やかに弁済することを保証する仕組みを有していること。
  3. 労働者の意に反する不正な為替取引その他の当該労働者の責めに帰すことができない理由により口座残高に損失が生じたときに、その損失を補償する仕組みを有していること。
  4. 最後に口座残高が変動した日から、特段の事情がない限り、少なくとも 10 年間は労働者が口座残高を受け取ることができるための措置を講じていること。
  5. 賃金支払に係る口座への資金移動が1円単位でできる措置を講じていること。
  6. ATMを利用すること等、通貨で賃金の受取ができる手段により、1円単位で賃金の受取ができるための措置及び少なくとも毎月1回はATMの利用手数料等の負担なく賃金の受取ができるための措置を講じていること。
  7. 賃金の支払に関する業務の実施状況及び財務状況を適時に厚生労働大臣に報告できる体制を有すること。
  8. 賃金の支払に係る業務を適正かつ確実に行うことができる技術的能力を有し、かつ、十分な社会的信用を有すること。

3.企業の対応

 本改正内容は、労働者が希望した場合に必ず会社が応じなければならないものではありません。逆に、会社が資金移動業者の口座への支払いを労働者に強制できるものでもありません。
 労働者の利便性向上のために本制度を導入する場合であっても、従来通り銀行口座又は証券総合口座への支払いも選択できる状態が求められています。
 また、資金移動及び口座残高の上限が100万円となっているため、利用がしにくい面がある点は否めません。振込手続や手数料の問題等で積極的な導入は進めにくい部分もあろうかと思いますが、労働者へ対するサービスの一環として、検討してみてはいかがでしょうか。

この記事を書いている人 
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小山健二

特定社会保険労務士

【略歴】昭和51年生まれ、東京都出身。駒澤大学文学部社会学科卒業。 専門商社、人材サービス業を経て社会保険労務士法人で勤務し、令和4年にエフピオへ入社。

人事労務のみならず、経営企画、仕入、営業部門での多様な経験から、全体最適の視点で業務遂行を心がけています。事業会社、専門家双方でM&Aプロセス、DD実務経験がある。

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タグ:
デジタル給与制度 , 法改正 , 賃金 ,
   

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