】過重労働防止の重点監督で、残業100時間超の実態が明らかに

1.時間外労働の上限規制

 働き方改革に伴う労働基準法改正により、時間外労働の上限は、(1)1ヶ月100時間未満(休日労働含む)、(2)2~6カ月の平均が80時間以内(休日労働含む)、(3)年間720時間以内となり、本年4月1日より施行されています。(ただし中小企業は令和2年4月1日より)

2.労働局による過重労働防止の「重点監督」でその実態が明るみに

 改正法施行直前の平成30年11月の「重点監督」の結果をみると、「1ヶ月の時間外100時間超の労働者」いた事業場の割合は1割強に上っています。この重点監督は毎年実施される「過重労働解消キャンペーン」に合わせて実施されたもので、対象は「過労死等の労災請求のあった事業場や若者の使い捨てが疑われる事業場」(全国8494事業場)です。

 全体の67.3%の事業場で労働基準法関係法令の違反がみつかり、是正に向けた指導が行われています。そのうち「違法な長時間労働」で指導対象になったのは2802事業場で、約3社に1社の割合になっています。

 違反事業場で、「時間外労働の実績が長い労働者」の状況を調べたところ、1ヶ月の時間外100時間超が868事業場、200時間超が34時事業場という結果でした。集計には建設業や運輸交通業のように改正労働基準法の経過措置対象業種も含まれますが、100時間未満という基準の順守は容易でないといわざるを得ません。

 過重労働防止関連では、全体の58.1%が指導を受けています。労働時間の管理の前提となる「労働時間の把握」体制に問題がある事業場の割合も、16.0%に達しています。

3.中小企業の4割「知らない」時間外労働の上限規制

 このような状況のなか、企業側の認識はというと、まだまだこれからといったというのが現実のようです。これも少し前になりますが、平成30年10月~12月にかけて、日本商工会議所と東京商工会議所が、全国の中小企業に「働き方改革関連法への準備状況等に関する調査」が実施しました。この調査は、働き方改革関連法の内容についての認知度や準備状況の質問で、2881社を対象に実施し、2045社の回答が得られました。

 この集計結果によると、時間外労働の上限規制の内容を「知らない」と答えた企業は39.3%に上りました。また、年次有給休暇の付与義務化を知らない企業は24.3%で、「同一労働同一賃金」を知らないのは47.8%。いずれも企業規模が小さいほど認知度も低い傾向があり、日本商工会議所では、「年次有給休暇の付与義務化をはじめ、法律のさらなる周知が求められる」としています。

 一方、同法の内容に未対応の企業は半数超を占めました。対応済みだったり、対応のめどがついていたりする企業割合は、時間外労働の上限規制で45.9%にとどまり、年次有給休暇の取得義務化は44.2%、同一労働同一賃金は31.0%でした。

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