【東京商工リサーチ掲載記事】役員は自由に解任できるのか? ~労働者と同じような保護があるのか~<社会保険労務士 浅山雅人>
★役員の解任には労働基準法にあるような縛りがあるか?
お客様から「当社の取締役を解任しようと思っているが、解任にあたり気を付けるべきルールはありますか?」といった質問を稀ではありますが受けることがあります。
これに対する回答は、次のとおりになります。
労働者は会社と雇用関係にある一方、取締役は会社との間で委任関係にあります。そのため、労働基準法や労働契約法といった労働法の縛りをうける労働者の解雇と、取締役の解任は異なる枠組みで判断されることになります。委任関係はその性質上いつでも解除可能とされており、取締役の解任についても株主総会の普通決議によって、いつでも解任可能であるとされています。また解任には理由も要求されません。
したがって、「役員は株主総会で自由に解任できる」ということになります。
★その役員に労働者性はない?
では、何の心配もなく解任できるかというと、そういう訳ではありません。よくよく尋ねてみると、労働者性のある役員(兼務役員)だったりします。取締役営業部長、取締役工場長のように取締役でありながら、労働者としての身分を合わせもっているケースです。また肩書はないにしても、(1)労働保険関係の加入状況を確認すると、雇用保険に加入し、毎月の給与から雇用保険料を控除している、あるいは労災保険については毎年の労働保険料の更新手続きにおいて、その加入対象者として計算しているケースや(2)始業時刻、終業時刻の勤怠管理を他の労働者と同じように行っているケースを見受けることがあります。
このような場合は、上記のような「自由に解任」ということはできず、労働法の適用を受けること可能性が出てきます。この場合「役員だから」は通用しません。したがって、解任(解雇)の対象としようとする役員に労働者性がないのか、きちんと確認しなければ、結果労働基準監督署からの連絡が突如来るなどの、予期せぬ反撃を受けることになります。
また、その解任(解雇)に正当な理由がないと判断されれば、解任(解雇)は認められません。
★「役員の解任」の場合であっても損害賠償請求を受けるリスクあり
「役員」に労働者性がない場合は株主総会で自由に解任できますが、その解任に「正当な理由がない」場合は、損害賠償請求を受ける可能性が出てきます。
また損害賠償請求が認められた場合は、解任された役員が任期満了までその地位にあった場合に受領できたはずの報酬の総額となることが多く、定款で役員の任期を10年に延長している場合は、相当高額な損害賠償額となります。
さて、「正当な理由」に該当するのは、
(1)法令・定款違反
法令や定款に違反する行為が解任の理由である場合
(2)心身の故障
病気のため療養に専念するため、取締役としての職務を果たせなかった場合
(3)職務への著しい不適任、経営判断の失敗
ケースバイケースで判断となります。
(4)人間関係の悪化
経営陣(代表取締役)との人間関係の悪化などは、それだけで正当な理由としては認められることはありません。
となります。
以上見てきたように、解任(解雇)にはいろんなハードルがあり、できればそのリスクは回避したいものです。そこで、役員の労働者性の有無にかかわらず、無用なトラブル避けるためにも、解任(解雇)という拙速な判断するのではなく、「辞任(自身の意思による)」や「退職勧奨」という選択肢を取ることができないかを検討する必要があります。
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