】障害者雇用の法定雇用率2.7%へ引き上げか<社会保険労務士 石川宗一郎>

■障害者雇用の概要

民間企業の法定雇用率は2.3%です。従業員を43.5人以上雇用している事業主(短時間労働者は0.5換算)は、障害者を1人以上雇用しなければなりません。また従業員100名を超える企業で障害者雇用率を未達成の場合は、法定雇用障害者数に不足する障害者数に応じて1人につき月額5万円の障害者雇用納付金を納付しなければなりません。例えば、12か月間に渡り障害者雇用が2名不足している場合には5万円×2名×12か月=120万円となり、120万円の納付金を納める必要があります。

■企業名の公表制度

納付金の支払いだけでは、「お金を払えば良し」とする企業が出てきてしまうため、企業名の公表制度があります。

法定雇用率を下回っている場合、労働局や厚生労働省からは、指導が入ります。職安所長は2年間の雇入れ計画の作成を命じます。計画通りに障害者雇用が進まないと、行政からは障害者雇入れ計画の適正実施勧告が発令され、それでも改善しない場合は、企業名を公表されることがあります。

厚生労働省報道発表資料より

■法定雇用率2.7%へ引き上げか

厚生労働省は、法定雇用率を2.3%から2.7%に引き上げる案を諮問機関である「労働政策審議会」に諮問しました。(2023年1月18日労働政策審議会・分科会)

  1. 新たな雇用率の設定について
    • 令和5年度からの障害者雇用率は、2.7%とする。
      ただし、雇入れに係る計画的な対応が可能となるよう、令和5年度においては2.3%で据え置き、令和6年度から2.5%、令和8年度から2.7%と段階的に引き上げることとする。
    • 国及び地方公共団体等については、3.0%(教育委員会は2.9%)とする。段階的な引き上げに係る対応は民間事業主と同様とする。
  2. 除外率の引下げ時期について
    • 除外率を10ポイント引き下げる時期については、昨年6月にとりまとめられた障碍者雇用分科会の意見書も踏まえ、雇用率の引上げの施行と重ならないよう、令和7年4月とする。
2023年1月18日労働政策審議会・障害者雇用分科会資料より

2024年4月に2.5%(従業員40名で1名)、2026年度中に2.7%(従業員37名で1名)に引き上げる方針です。各社障害者雇用に苦戦する中、引き上げとなります。

■障害者雇用代行ビジネスの是非

そのような中、流行しているのが「障害者雇用代行ビジネス」です。

代行業者は、障害者雇用が必要な利用企業に対して、障害者を紹介し紹介料を受け取ります。紹介を受けた障害者は利用企業と雇用契約を結ぶ訳ですが、実際はその障害者は代行業者が管理する農園で働きます。利用企業は農園の管理費を代行業者に支払います。

つまり表向き利用企業が障害者を雇用している形になるのですが、その実態は代行業者が実質的な管理をしている状況になります。現時点で違法行為ではありませんが、障害者雇用率の達成をお金で解決しているという批判があります。共同通信の1月9日付報道では、数十社の代行業者が存在し、約800社の利用企業、約5,000人の障害者が雇用されていると報じています。

衆議院の厚生労働委員会においても、障害者総合支援法等改正案の附帯決議に「障害者雇用率制度における除外率制度の廃止に向けた取組を行うほか、事業主が、単に雇用率の達成のみを目的として雇用主に代わって障害者に職場や業務を提供するいわゆる障害者雇用代行ビジネスを利用することがないよう、事業主への周知、指導等の措置を検討すること」という注文を付けています。ちかく厚生労働省が方針を発表すると見られます。

このような情勢の背景には10年前1.8%だった法定雇用率が急激に上がったこともあり、企業側の受け入れ準備が整っていないという現実があります。私も法定雇用率達成のために急遽雇用した障害者が短期離職してしまったという場面を何度も目撃しています。障害者雇用代行ビジネスを一方的に悪と断じるのは非常に難しいと思います。

この記事を書いている人 
-Writer-

石川宗一郎

社会保険労務士/代表

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【略歴】昭和59 年生まれ、千葉県八千代市出身。東邦大学卒業。大学卒業後、インターネット業界で友人と起業。その後、浅山社会保険労務士事務所(現エフピオ)へ入社。社労士業の面白さにどっぷりハマる。

日々起こる人事や労務に関する相談対応、就業規則や賃金制度の策定、買収前調査(労務デューデリジェンス)などを担当。

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法定雇用率 , 障害者雇用 ,
   

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