【東京商工リサーチ掲載記事】同一労働同一賃金 労働基準監督署が指導強化へ<社会保険労務士 小林沙奈江>
「同一労働同一賃金」の法改正がなされて早2年。施行がされてから大きな裁判例も聞かないですし、弊社のお客様先でも同一労働同一賃金で指摘を受けたケースはありません。
そんな折、2022年12月1日、労働新聞の紙面に「同一賃金 労基署が事実関係確認へ 指導の実効性高める 厚労省」と1面に記事が載っていました。記事によると、新たに労働基準監督署が定期監督などを利用してパート・契約社員等の基本給が諸手当などの処遇について調査し、労働局へ報告する体制を徹底するため、労働基準監督官を全国で52人増員する方針です。
今回は同一労働同一賃金について、解説いたします。
同一労働同一賃金とは?
同一労働同一賃金については、パート・有期雇用労働法第8条において、同一企業内における正社員と非正規労働者の不合理な待遇差の禁止を定めているものです。この非正規労働者は、パート、契約社員、嘱託社員、派遣社員等、正社員ではない非正規労働者のことを指します。
正社員と非正規労働者の仕事の内容や役職等の責任の度合いが同じであれば、同じ処遇をすべき、というのがこの同一労働同一賃金の考え方です。具体的には下記の順番で同一賃金にすべきかどうかを判断します。
①「職務の内容が同じ」かどうか
例えば、販売職であるならばパートは接客、レジ、品出しの業務だが、正社員はその業務にプラスして、発注、クレーム処理と責任のある仕事を付けているならば、同じではありません。これが全く同じであれば、クレーム対応、ノルマなどの成果がパートにも付与されているか、で判断します。
②「職務の内容・配置の変更の範囲(人材活用の仕組みや運用など)が同じ」かどうか
転勤の有無、転勤の範囲、人事異動や昇進があるか、人事異動の範囲はどうか、で判断します。
①と②が全く同じであれば、差別的取扱いを禁止しています。差別的取扱いとは、基本給や手当等の給与、休職制度や福利厚生制度を同じにしなければなりません。とはいえ、①と②の条件を見ていただいた方は、こんなパート・契約社員はいないよ!とおっしゃるかと思います。まさにその通りで、まったく同じでなく、①は同じだけれど②は違う、といったように一部が違うことの方が多いです。その場合は、手当の差があっても問題はありませんが、なぜ手当の差があるかと説明する必要があります。説明をするタイミングは、雇い入れ時と説明を求められた場合です。言った言わないのトラブルを避けるために、文書にして説明をした方がよいです。
労働基準監督署の調査の概要
同一労働同一賃金の内容が載っているパート・有期雇用労働法は、労働基準監督署ではなく、各都道府県労働局が取り締まっています。今までも労働局が同一労働同一賃金について調査をしている実態はありましたが、件数はそれほど多くなく、指摘事項も少ない状況でした。
新たな取り組みでは、労働基準監督官が労働条件に関する定期監督などを実施する際、パート・契約社員の基本給や手当、賞与などの待遇差の有無を確認していくというものです。確認した情報は、労働局へ連携し、助言・指導へつなげる予定です。
これまでは全国47ヵ所の都道府県労働局が調査をしていましたが、全国325ヵ所の労働基準監督署(2022年12月現在)が調査を実施することになります。そのため、通常の労働基準監督署の調査(未払い残業代や時間管理等)に加え、同一労働同一賃金の項目も調査対象となります。労働基準監督署による確認自体は同法違反の有無を判断するものではありませんが、不合理な手当な差があった場合、労働局による報告徴収の対象となり、是正指導を受ける可能性がありますので要注意です。
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