【東京商工リサーチ掲載記事】2023年4月よりデジタルマネーによる給与支払解禁<社会保険労務士 小林沙奈江>
2022年11月28日、デジタルマネーによる給与の支払いを可能とする法改正が決定され、2023年4月1日より施行となりました。
キャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化が進む中で、会社が、労働者の同意を得た場合に、厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者の口座への資金移動による賃金支払(いわゆる賃金のデジタル払い)ができることとしました。
労働基準法による賃金支払の5原則
デジタルマネーによる給与支払を考える前に、そもそもの労働基準法の賃金支払いに関するルールをみてみましょう。労働基準法第24条では、賃金支払の5原則を規定しています。5原則とは、①通貨払いの原則、②直接払いの原則、③全額払いの原則、④毎月1回以上払いの原則、⑤一定期日払いの原則です。法律上は、賃金支払の原則は「現金」払いです。ですが、ほぼすべての会社は、労働者の同意のもと、銀行口座に支払っています。銀行口座への振り込みの他、デジタルマネーの口座への入金、という選択肢が増えるということになります。
デジタルマネー払いの対象
デジタルマネーの方式は、主に3つあります。1つ目は、前払式支払手段(プリペイド式)です。主に、Suicaなどの交通系電子マネー、WAONやnanacoなどの流通系マネー等で、事前に入金することで利用が可能となるが、原則出金は不可能です。2つ目は、ポストペイ式です。クレジットカードのように、後払いになります。3つ目は、資金移動業です。PayPay(PayPayマネー)、LINE Pay(LINE Money)、楽天ペイ、メルペイなどが対象です。一度入金しても、支払い以外に出金することが可能です。
給与の支払いで解禁されるデジタルマネーは、資金決済に関わる法律(資金決済法)における「資金移動業」によって行われるものだけです。
デジタルマネー払いの問題点
一見便利そうなデジタルマネー払いですが、問題点が3つあります。
①給与のデジタルマネー払いが可能になる時期が不明
給与のデジタルマネー払いを資金移動業者が行う場合、資金移動業(第二種)の登録に加え、厚生労働大臣の指定を受け、指定資金移動業者となる必要があります。この厚生労働大臣の指定の申請受付は2023年4月1日からで,厚生労働大臣の指定には数カ月かかるとしています。そのため企業がそれを導入できるのは早くても2023年の後半になるとみられています。
②どの資金移動業者が指定を受けるかが不明
資金移動業者が厚生労働大臣から指定を受ける条件は、かなり厳しいものとなっています。現状では、PayPayや楽天、auなどがサービス提供を検討しているといわれているものの、どの資金移動業者がサービスを提供するかははっきりしておらず、いつから、どのデジタルマネーでの給与支払が可能になるのかについては、わからない状況です。
③指定資金移動業者が提供するサービスも不明
指定資金移動業者の行うサービス面にも不透明な部分は多くあります。例えば、現状では多くの会社が銀行の給与振込サービスを利用して、労働者に給与の支払いを行っていますが、デジタルマネー払いでもそうした給与振込サービスが使えるかどうかは不明です。使えたとしても、すべてのデジタルマネーと銀行の間でやり取りが可能かは不明ですし、その場合の手数料がどうなるかなどもわかりません。
デジタルマネー導入のメリット・デメリット
デジタルマネー導入のメリットは、下記のとおりです。
・振込手数料が銀行口座等に振り込むよりも安くなる可能性が高い
・利用者増加を狙い、指定資金移動業者が何らかのポイント還元を行う可能性もある
・労働者側からすると、自分の銀行口座等から普段使うデジタルマネーの口座に送金する手間が省けるため、デジタルマ ネーのヘビーユーザーほど給与のデジタル マネー払いを希望する可能性がある
次に、デメリットは下記のとおりです。
・会社の給与支払の手間が増える。(労働者の同意を得たり、デジタルマネー口座の情報を収集する手間等)
2023年4月の解禁からすぐに給与のデジタルマネー払いを導入するというのは現実的ではなく、会社としては指定資金移動業者が出揃い、サービスの内容が明らかになった段階で給与のデジタルマネー払いをどうするかを検討しても遅くはありません。
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