【東京商工リサーチ掲載記事】「パワーハラスメント防止措置」が中小企業の事業主にも義務化されて1年、いま、改めて振り返りを。それは、指導ですか、パワハラですか。<社会保険労務士 津田千尋>
職場における「パワーハラスメント」の定義
あらためて、ですが、パワーハラスメントの定義です。職場で行われる、➀~③の要素全てを満たす行為をいいます。正直、この定義の部分は、みな知っています。
① 優越的な関係を背景とした言動
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
③ 労働者の就業環境が害されるもの
※客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は該当しません。
そう、ポイントはココなんです。「客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導」この部分であれば、パワーハラスメントではないのですが、殊更に、パワーハラスメントと言われてしまうことを恐れて、注意できない(注意したくない)、指導できない(指導したくない)、という職場の上司の方が、実は、増えています。結果的に、職場でのコミュニケーション不足が加速している傾向にあると、感じています。とある現場では、今まで発生していなかったような、小さな労災事故が多発する傾向にあります。ちょっとした声がけや、ちょっとした指導が減ってきていることが原因なのではないかと、背景にあるのではないか、と思われる傾向にあります。(あくまで私見ですが。)
Q.普段から欠勤しがち、体調不良がちな従業員がいます。業務は日常的に機械作業があるので、出勤していてもフラつきが見られている状態だと、とても危険だと感じています。ここで注意したら、パワハラですか?パワハラだと言われることがこわくて、注意ができません。
パワハラ防止法ばかり取り上げられたせいか、こんな、本末転倒な質問をいただくことも増えました。みなさまの会社では、どのように対応しますか?
労働者には、労働契約に基づき労務を提供する義務があります。この場合、フラつきが見られて、機械作業を行うには危険が高く、労務を提供できるとはいいがたい状態での出勤をしている状況と言えます。この状態であれば使用者は、当日の労務の提供を拒否し、休息が必要であれば休息させ、安全に帰宅できることを確認してから、帰宅を命じます。日々、体調不良、欠勤しがちという状況が見られるのであれば、使用者には労働者に対する安全配慮義務(健康配慮義務)がありますから、まずは、労働者自身の健康状態を再確認することが必要です。
ふらついている原因に心当たりがないか、話をする際に、過度にプライベートに立ち入ってしまえば、「個の侵害」ということでパワーハラスメントに該当してしまう可能性も全くないわけではありませんが、そもそも、安全配慮義務の履行のために、健康状態の把握、確認は使用者の義務になりますので、“自信をもって”話をしていただきたいところです。パワハラと言われるのが怖くて、話ができない、というのは、安全配慮義務の履行を行わない、放棄している、ある意味、職務放棄とも呼べる状態です。
パワーハラスメント対策の研修は、繰り返し、階層別に、がおすすめです
研修を行う際には、誰を対象に研修を行うのかを明確にして研修を行いましょう、と顧問先のお客様には提案をしています。今回の話題で言えば、“ハラスメント研修”、ということになりますが、全従業員(全職員)対象としてしまうと、1回で開催ができるというメリットはあるものの、研修内容や研修対象がぼやけてしまい、あまり効果が期待できないのが現実です。パワハラにならないように気を付けなければならないのは当たり前、しかし、指導をするのはそもそも管理職の重要な職務です。パワハラだと言われたくないから、指導を一切しないでよいのですか?と普段のコミュニケーションが大切なので、コミュニケーション力アップ研修とセットでご提案しています。上記のような状態の従業員がいたら、どうやって声をかけますか?と声かけの練習を行います。皆さまの社内の研修は、形だけのものになっていたりしませんか?あらためて、社内研修を見直してみませんか?
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