【東京商工リサーチ掲載記事】建設業だったら協定さえ結んでおけば、月45時間超えて残業させても大丈夫なんですよね?<コンサルタント 松岡藍>
みなさん、こんにちは。
社会保険労務士法人エフピオの松岡藍です。
今回は建設業の顧問先様から「来年から残業規制が厳しくなりますが、協定を結ぶことで月45時間超えても特に問題ないですよね?」といったご質問をいただきましたので来年変わる時間外労働の上限規制の適用が猶予されていた事業・業種について整理していこうと思います。
労働局より36協定届の2024年4月以降新様式が公開されているので使用する様式についてもご紹介していきます。
■時間外労働の上限規制とは
そもそも労働時間は原則1日8時間、1週40時間(法定労働時間)以内でなければならないと労働基準法上で定められています。これを超えて働く、つまり時間外労働をさせるためにはいわゆる36協定を締結する必要があります。
この36協定を締結することで原則月45時間以内、年360時間以内(=限度時間)の時間外労働をさせることができるようになりますが、臨時的な事情等でこちらの限度時間内での業務が難しい場合もあり得ます。
このような場合には追加で特別条項を締結することで限度時間を超えて時間外労働をさせることも可能となりますが下記のような制約があります。
・休日労働を含まない時間外労働時間:年720時間以内(①)
・休日労働を含む時間外労働時間:単月100時間未満(②)、複数月(2~6か月)平均80時間以内(③)
・限度時間を超えられるのは年6回まで(④)
■上限規制の適用猶予
上記の時間外労働の上限規制は2019年4月から、中小企業は2020年4月から適用されてきましたが、業務の特殊性などの課題から下記の事業・業務の適用が猶予されていました。
・工作物の建設の事業
・自動車運転の業務
・医業に従事する医師
・鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業
この適用猶予が終了し、2024年4月以降には特例付きで上限規制が適用されることになります。
では、「特例」について、特にお問い合わせの多い3つの事業・業種を整理していきます。
■工作物の建設の事業
いわゆる建設業については、基本的にすべての上限規制が適用されることになりますが、災害時における復旧及び復興の事業の場合には、②③の上限規制が適用されません。
このように災害時の復旧・復興の対応が見込まれるか否かで上限規制が異なるので使う協定の様式も下記のように分類されています。
・特別条項が必要ない、かつ災害時の復旧対応見込まれない→様式第9号
・特別条項が必要ない、かつ災害時の復旧対応見込まれる→様式第9号の3の2
・特別条項が必要、かつ災害時の復旧対応見込まれない→様式第9号の2
・特別条項が必要、かつ災害時の復旧対応見込まれる→様式第9号の3の3
紙面の関係上様式を示すことはできないので紹介のみになりますがご参考にしてみてください。
■自動車運転の業務
運転手の場合、特別条項①について720時間ではなく960時間という規制がありますが、②から④の規制は適用されません。
ただし、運転手の場合には改善基準告示が適用される点に注意が必要です。改善基準告示は現時点でも適用されていますがこちらも2024年4月に改正されるので36協定の規制のみ遵守していても知らず知らずのうちに違反していることになりかねません。改善基準告示についてはまた別の機会にご紹介出来ればと思います。
様式の分類については建設業よりもシンプルで下記のようになります。
・特別条項が必要ない→様式第9号の3の4
・特別条項が必要→様式第9号の3の5
■医業に従事する医師
医師の場合は、特別条項①の変形版で時間外労働時間および休日労働時間の合計について最大1,860時間となりますが、こちらも注意が必要で働き方改革関連法に基づき適用される水準で医療機関が特例水準の指定を受けたか否かによって異なります。A水準・連携B水準では960時間、B水準・C水準では1,860時間です。②から④の規制は適用されません(ただし、働き方改革関連法では月100時間未満である必要)。様式は下記になります。
・特別条項が必要ない→様式第9号の4
・特別条項が必要→様式第9号の5
■おわりに
いかがだったでしょうか。今回のご質問の答えはおわかりかと思いますが、適用猶予されていた事業・業務ごとに細かい違いや別の定めにも気を配る必要があるなど複雑になっていることから、疑問に思われた顧問先様の気持ちもとてもよくわかります。怖いのは意図せず違反してしまうことなので来年度に向けて理解を深めていきましょう。
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