【東京商工リサーチ掲載記事】雇用保険=失業保険にあらず。人材育成に活用を!<社会保険労務士 松井 碧城>
社会保険労務士法人エフピオの松井です。
新年を迎え、新たなスキルの獲得を目標に掲げている方も多いのではないでしょうか。産業構造の変化や技術の進歩が加速する中、リスキリング(学びなおし)の重要性は、個人にとっても企業にとっても無視できないものとなってきています。一方で、社員教育に要する時間や費用を確保できないという問題もよく聞く悩みの一つです。そこで今回は、雇用保険の被保険者を対象とした人材育成に関連する政府の支援策をご紹介します。
■職場での計画的な人材育成に支給される助成金
厚生労働省による助成金の一つに人材育成に取り組む事業主に向けた「人材開発支援助成金」があります。従業員に対して、従事する職業能力の向上に必要な訓練等を計画に沿って実施した場合、訓練費用や訓練期間中の給与の一部を支給するというものです。対象者や目的別に7つのコースが用意されていますが、ここでは「人材育成支援コース」について説明します。
令和5年4月に創設されたこのコースでは、以下にあげるいずれかの訓練を実施した事業主に対して助成金が支払われます。
1.職務に関連した知識・技能を習得させるためのOFF-JT訓練を10時間以上実施した場合
2.中核人材を育てるために実施するOJTとOFF-JTを組み合わせた訓練を行った場合
3.有期契約労働者に対して正規雇用労働者への転換を目的とした訓練を実施した場合
ポイントは従事する職務に関連したスキルの取得や、有期契約労働者の正社員化が要件となる点です。スキルアップや資格取得は転職とセットで語られることも多いですが、職務に必要な能力の成長を企業が計画的にサポートすることで人材定着の効果も期待できます。
支給にあたっては、人材育成の基本方針を作成し、職業能力開発の推進者を選任する必要があります。対象者や支給要件も細かく設定されていますので、計画作成段階から、しっかりとチェックしておく必要があります。
■労働者の自主的な学びを支援
教育訓練給付金は労働者が自ら職業に関する教育訓練を受けた場合に、訓練費用の一部が被保険者に直接支給される制度です。対象は厚生労働省が指定する講座となります。教育訓練給付金の中でも利用者が多く、支給にかかるハードルが低いのが一般教育訓練給付金です。指定講座を修了しハローワークに申請をすると支払った費用の20%が支給されます。ただし、支給額の上限は10万円で、支給額が4000円に満たない場合は支給されません。支給要件は次の通りです。
1.教育訓練を開始した日(以下基準日)において雇用保険の一般被保険者または高年齢被保険者であること。または被保険者でなくなった日から1年の期間内に基準日があること。
2.基準日において同一事業者に雇用保険の被保険者として3年以上(初回は1年以上)雇用されていること(資格取得日以前1年以内に別の事業所等で被保険者であった期間も通算可)。また、前回の給付金受給日から、今回受講開始日まで3年が経過していること。
3.当該教育訓練の講座を修了していること。
1にあるように在職中も受給可能です。雇用保険加入者であれば、雇用形態に関わらず受給対象となりますので、例えばパートタイマーの方であっても教育給付金制度を利用することができます。平成29年からは、65歳以上の方も対象となりました。
給付対象の講座については、厚生労働省の「教育訓練講座検索システム」で検索できます。自社の従業員のスキルアップにつながる講座がないか、一度チェックしてみるのもよいかもしれません。
■はたらく人と共に成長する
生産年齢人口の減少により、人手不足を採用活動だけで補うのは非常に難しく、企業内での人材育成の重要度は増す一方です。事業発展のための育成方針を明らかにし、はたらく人の成長への思いを伝えていくことが大切なのではないでしょうか。
従業員の方が能力を発揮し、長く活躍できるよう、今回紹介した支援策の活用も検討してみてください。
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