】定年を迎えた人の対応の流れ~再雇用後 嘱託社員の労働条件の決め方~

 令和3年4月1日より、高年齢者雇用安定法が改正され、70歳までの「就業確保」が努力義務化されました。とはいえ、努力義務のため実際に70歳までの継続雇用とする企業は少ない印象です。 今回は、定年を迎えた方の対応の流れについて、詳しくご説明いたします。

定年再雇用のすすめ方

 まずは、1年くらい前より定年再雇用の制度を早期に説明・周知します。定年後、再雇用で働く人の身分を「嘱託社員」と呼ぶことが多いため、ここでは嘱託社員と呼びます。

嘱託社員用の就業規則のルールを対象者に説明し、退職金がある場合はその制度内容も説明しましょう。自身の今後のキャリアを考えていただきます。

 次に、定年退職を迎える数カ月前から、対象者と個別のヒアリングを行います。定年退職をするのか、再雇用をするのか、本人の意向を確認します。

 意向が無い場合は定年退職となります。意向があった場合、対象者の「勤務成績」「職場の業務量」「経営状況」を勘案し、雇用条件を提示します。この雇用条件は、対象者の希望通りの雇用条件で雇用し続けなければならないわけではありません。現役時代の給与を含む雇用条件を見直すことは違法ではありません。

この雇用条件に対して、希望がなければ定年退職、希望がある場合は定年後の継続雇用となり、嘱託社員へ再雇用となります。

これが、65歳まで希望者全員再雇用の手続きの流れとなります。

 就業規則の定年の箇所には、「本人の希望を確認のうえ、65歳まで1年以内ごとに更新する」「定年後の再雇用する場合、賃金、勤務条件を見直す。」という記載を追記しましょう。 あくまでも、「本人の希望」「定年後の再雇用後の雇用条件は見直す」旨の記載をします。

嘱託社員の賃金の決め方

 独立行政法人労働政策研究・研修機構が調査した「高年齢者の雇用に関する調査」(令和2年3月31日)では、嘱託社員の仕事内容について、定年前とまったく同じ仕事と答えた人は44.2%、 定年前と同じ仕事であるが、責任の重さが軽くなると答えた人は、38.4%、定年前と一部、またはまったく異なると答えた人は6.1%となっています。また、60歳到達時の賃金を100%とした場合、嘱託社員の平均的な水準の人は78.7%となっています。

 同一労働同一賃金の観点から、定年前とまったく同じ仕事の場合、給与を下げることは裁判上不利なると考えます。名古屋自動車学校事件(名古屋地裁判決 令和2年10月28日)では、60歳で定年を迎え、嘱託として再雇用された社員が、職務が同一にも係わらず、基本給が6割を下回るのは違法だと訴えた裁判です。原告は、技能講習や高齢者教習を担当。仕事の内容や責任の範囲は定年前と変更がなかったにもかかわらず、基本給は定年前の月額16万~18万円から7万~8万円ほどに下がりました。裁判所では、再雇用の際に賃金に関する労使の合意がなかったことから、「年功的性格があることから将来の増額に備えて金額が抑制される若い正社員の基本給すら下回っており、生活保障の観点からも看過しがたい水準に達している」として、未払い賃金の支払いを命じました。

 第一審(地裁)の判決のため、この裁判例で判断するのは難しいですが、基本給が6割下がる、若い正社員よりも給与が低い、ということであれば見直す必要があります。

 違反と言われないためには、「仕事・責任・役割」を何かしら変える必要があります。

 まずは役職を降ろす(役職手当を外す)ことができないか。残業・休日出勤を無しにする。トラブル・クレームの対応は正社員だけにする、といった仕事の内容・責任を変更できるか検討します。

 また、労働時間を変えるのも一つの手です。1日ないしは週の所定労働時間数を変更し、副業・兼業を可とします。 高齢者の活用を見据えて、嘱託社員の活用方法を見直しをしましょう。

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