【東京商工リサーチ掲載記事】定年は65歳に引き上げになるんですか? <コンサルタント松岡藍>
みなさん、こんにちは。
社会保険労務士法人エフピオの松岡藍です。
さて、今回は「定年って65歳にしなきゃいけないんですよね?」とお客様から受けたご質問をテーマにお話していきます。
■定年65歳時代?
定年を60歳に設定している企業様が多いのではないでしょうか。こちらは、高年齢者雇用安定法(以下「高年法」という)第8条に「定年は、六十歳を下回ることができない」と定められているためと考えられます。
では、なぜ65歳というキーワードが出てきたのでしょうか。
「65歳」といえば、現在義務化されている高年齢者雇用確保措置があります。
■高年齢者雇用確保措置
定年を65歳未満に設定している企業の場合、以下の3つの中からいずれかの措置を講じる必要があります(高年法第9条第1項)。
- 65歳までの定年引き上げ
- 65歳までの継続雇用制度の導入
- 定年制の廃止
ただ、こちらはいずれか選択すればよいので、必ずしも定年を65歳に設定する必要はありません。希望者全員を再雇用するという②の措置を講じている企業様が多いのではないでしょうか。
わたしのお客様にもその旨ご説明しましたが、現行の義務ではなくてこれから法律が変わるから今から準備しなければならないんだとおっしゃるのです。
■高年齢者就業機会確保措置
現行では努力義務ですが、ゆくゆくは義務になるであろう高年齢者就業機会確保措置は令和3年4月1日施行の高年法第10条の2に定められています。こちらは、70歳までの就業機会を確保することを目的として以下のいずれかの措置を講じるよう「努めなければならない」とされています。
- 70歳までの定年引上げ
- 70歳までの継続雇用制度の導入
- 定年制の廃止
- 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
- 70歳まで継続的に以下の業務に従事できる制度の導入
A 事業主が自ら実施する社会貢献事業
B 事業主が委託、出資等する団体がおこなう社会貢献事業
65歳ではなくて70歳を基準としている話であればこの高齢者就業機会確保措置ですが、こちらであったとしてもいずれかの措置を講じればよいので違いそうでした。
ここでお客様から「猶予期間なんですよね」という大ヒントをいただきました。
■労使協定による経過措置
高年齢者雇用確保措置について平成24年法改正の経過措置として平成25年3月31日までに労使協定を締結していれば、当該労使協定で定めた基準に適合する者に対しては65歳までの継続雇用とし、それ以外の者は以下の年齢までの継続雇用とすることが可能でした。(就業規則への定めも必要です。高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者雇用確保措置関係)参照https://www.mhlw.go.jp/general/seido/anteikyoku/kourei2/qa/index.html)
- 平成25年4月1日~平成28年3月31日 →61歳
- 平成28年4月1日~平成31年3月31日 →62歳
- 平成31年4月1日~令和4年3月31日 →63歳
- 令和4年4月1日~令和7年3月31日 →64歳
例えば、令和4年6月は④にあてはまるので、63歳の方は65歳までの継続雇用対象ですが、64歳の方は労使協定の基準を満たすか否かで継続雇用の年齢が変わります。
上記経過措置は令和7年4月1日には終了しているので、希望者全員を65歳まで継続雇用しなければならなくなります。つまり、平成25年3月31日までに労使協定を締結していた企業も労使協定を締結していなかった企業と同じになる、ただそれだけです。
しかし、結果的にはこの経過措置が今回のご質問のスタートだったようです。ようやくたどり着けました。もちろん回答は「定年を65歳に引き上げなくて大丈夫です」。
■おわりに
定年を65歳に引き上げなければならないということはなく、労使協定で上記のような経過措置を採用していた企業は令和7年にその恩恵を受けられなくなるというだけなのですが、わたしはここ半年間でこのお客様以外にも同じ質問を受けました。
わたし達にとってはよく目にする法改正でもお客様にとっては断片的な情報で勘違いされてしまうケースもあります。そんなお客様に正しい情報を提供するために日々勉強だなと思った本日のお話でした。
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