】年収の壁(106万円の壁、130万円の壁)を改めて考えてみました<社会保険労務士 廣瀬潤>

2023年9月25日に政府が発表した「経済対策」の中で「年収の壁」への対策が公表されました。具体的には、2023年9月27日に厚生労働省が発表しています。

そこで今回は、改めて「年収の壁」について改めて考えてみたいと思います。

※本記事は記載時点の情報となります

■年収の壁とはなんのことでしょうか 「106万円の壁」と「130万円の壁」

 「年収の壁」とは、配偶者の扶養に入り働く人が、一定の年収を超えると扶養を外れて、会社の年金や医療といった社会保険に加入し保険料を支払うことになります。この一定の年収を「年収の壁」(ボーダーライン)と言います。「年収の壁」には「106万円」と「130万円」があります。

106万円の壁とは

会社員や公務員の扶養に入っている人が、従業員数(正確には厚生年金に加入している人)が101人以上の企業で勤めていて次の条件をすべて満たす場合、社会保険に加入する必要があります。

  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 賃金が月額8.8万円以上(時間外割増手当、通勤手当等を除く)
  • 雇用期間の見込みが2か月以上
  • 学生ではない

この加入条件の1つである月額賃金8.8万円以上に12か月を掛けると約106万円となります。よって社会保険に加入する必要がある年収(ボーダーライン)である106万円を「106万円の壁」と言います。

★130万円の壁とは

会社員や公務員の配偶者の扶養に入っている人が、パートタイマー等で働き、年収130万円以上(交通費含む)になると扶養から外れ、ご自身で社会保険に加入しなければなりません。この自ら社会保険に加入しなければならない年収(ボーダーライン)である130万円を「130万円の壁」といいます

★「年収の壁」とは

「年収の壁」をまとめると、社会保険に加入する必要がある年収のことを指し、また、社会保険に加入することにより保険料の負担が発生し、手取り額が減少してしまうため「働き控え」(働き損の回避)を検討するボーダーラインとも言えます。

年収の壁一覧

106万円の壁勤め先の社会保険の加入義務が発生する年収。企業規模(人数)、労働条件(勤務時間、日数、雇用期間)等の一定の条件を満たすと、社会保険に加入する必要がある
130万円の壁配偶者の社会保険の扶養となれる年収の限度額、年収130万円以上(交通費含む)になると、扶養から外れ、ご自身で国民健康・年金保険や、勤め先の社会保険に加入する必要がある。

■「年収の壁」対策の背景とは  

★最低賃金の大幅な上昇、人手不足、社会保険適用拡大

最低賃金の引き上げ額が年々上昇しているため、以前より「年収の壁」を意識した働き方をしなくてはならず、働きたくても「年収の壁」により働けない状況(働き控え)をする方がいます。

企業においても、少子高齢化の影響や人材の需給のアンバランスなど様々な要因からから深刻な人手不足になっており、

・働く人が「年収の壁」を意識せずに働ける環境を整えること

・企業の人手不足解消を解消すること

が対策の背景の一つではないかと考えます。

また、2022年10月から社会保険の適用拡大により、パートやアルバイトでも一定の要件を満たした場合、社会保険に加入する必要があり、「106万円の壁」が意識されやすくなっていること、現在、社会保険の適用拡大の対象となっているのは101人以上の企業となっていますが、2024年10月以降は、51人以上の企業となるため益々、「年収の壁」を意識して働く人が増加することが予想されます。このことも対策の背景の一つと考えます。

■「年収の壁」との上手な付き合い方(働き方)を考えましょう

厚生労働省が発表した年収の壁・支援強化パッケージは、恒久的なものではなく、2025年に予定される年金制度改革までの時限的(つなぎ)なものとなっています。

年金制度改革で年収の壁の見直しが図れるのか不透明ではありますが、今回発表された支援強化パッケージを利用し、年収の壁を意識しない働き方へ移行(意識の醸成)、人手不足解消のための業務の見直しなど、社内の人事に関わる問題を解決し、強化する良い機会です。一度、立ち止まり現在の状況を確認し、時間的猶予がある今のうちに対策を練り、実行していきましょう。

この記事を書いている人 
-Writer-

廣瀬潤

社会保険労務士

【略歴】昭和56年生まれ、父の仕事の関係で子供のころはあっちこっちに住んでいました。
神奈川大学卒業後、食品スーパーの総菜部門で1年半店舗勤務後、人事部門へ異動となり人事人生がスタート。
その後、建設コンサルタントや洋服の副資材を扱う会社に勤務後、社会保険労務士法人エフピオにどうしても入社したくなり入社。
埼玉から千葉を毎日通勤しています。座右の銘は、『走りながら考える』です。

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