】年収の壁・支援強化パッケージの落とし穴~この2年間、年収130万円超えても被扶養者になれる?は誤解~<社会保険労務士 浅山雅人>

1.年収の壁<130万円>対策への誤解

令和5年10月に年収の壁の対策として「年収の壁・支援強化パッケージ」が公表され、本記事でも取り上げさせていただきました。ただ、巷では<被扶養者の収入確認に当たっての「一時的な収入変動」に係る事業主の証明書>を提出しさえすれば、この2年間については130万円を超えて勤務しても被扶養者から外されないとの誤解がされているようです。

このような誤解をもとに勤務した(勤務させた)ため、その対策の対象外となってしまわぬよう注意喚起のために本記事とさせていただきました。(なお、令和5年10月23日時点での情報をもとにしております)

2.<事業主の証明による被扶養者認定Q&A>から正しく理解する

厚生労働省HPで130万円の壁への対応で、「繁忙期に労働時間を延ばすなどにより、収入が一時的に上がったとしても、事業主がその旨を証明することで、引き続き扶養に入り続けることが可能となる仕組みを作ります。」とし、その運用基準がQ&Aで公表されています。

そのなかで

Q:社会保険の適用要件を満たしているため、社会保険に加入することになると事業主から伝えられました。そのような場合でも、今回の措置(事業主の証明による被扶養者認定の円滑化)の対象となりますか<Q4-1>

A:社会保険の適用事業所において、正社員として働かれる場合や、パート・アルバ イト勤務であっても社会保険の適用要件を満たす場合には、社会保険の被保険者となる必要があるため、被扶養者とはなりません。<A4-1>

があります。

これは今回の年収の壁対策が講じられた後も従前の社会保険(厚生年金、健康保険)の適用ルールは維持されることを意味しています。このため、130万円を超えても「扶養に入ったまま働ける!」はすべて正解ではありません。

そこで、この社会保険の適用ルールを以下に記します。この基準に該当すると、このたびの壁対策の対象者からは除外されることになります。

1)厚生年金保険等の被保険者資格取得の基準の明確化/平成28年10月

平成28年10月1日から健康保険・厚生年金保険の被保険者資格の取得基準が以下のとおり明確になります。

1週の所定労働時間および1月の所定労働日数が常用雇用者の4分の3以上

2)短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大Q&A集/平成28年10月

Q就業規則や雇用契約書等で定められた所定労働時間又は所定労働日数が4分の3基準を満たさない者が、業務の都合等により恒常的に実際の労働時間及び労働日数が4分の3基準を満たした場合は、どのように取り扱うのか。<問2の2>

A実際の労働時間及び労働日数が連続する2月において4分の3基準を満たした場合で、引き続き同様な状態が続いている又は続くことが見込まれるときは、4分の3基準を満たした月の3月目の初日に被保険者の資格を取得します。

3)短時間労働者に対する厚生年金保険・健康保険の適用拡大/平成28年10月、令和4年10月、令和6年10月

次のすべてに該当する場合は被保険者の資格を取得する。

①週の所定労働時間が20時間以上であること

②雇用期間が1年以上見込まれること

③賃金の月額が8.8万円以上であること

なお賃金は所定内賃金を意味し、
ア)臨時に支払われる賃金および1月を超える期間ごとに支払われる賃金、
イ)時間外労働、休日労働および深夜労働に対して支払われる賃金、
ウ)最低賃金法で算入しないことを定めている賃金(精皆勤手当、通勤手当、家族手当)
は含まない。

④学生でないこと

⑤次の事業所に勤務すること

  • 平成28年10月1日以降令和4年9月30日 501人以上の被保険者を使用する事業所
  • 令和4年10月1日以降令和6年9月30日  101人以上の被保険者を使用する事業所
  • 令和6年10月1日以降51人以上の被保険者を使用する事業所

昨今YouTubeなどでこの年収の壁を取り上げた動画をみて、従業員のみなさまから勤務時間や契約内容の見直しなどの質問や要望があがっている事業所も多くあると推察されますが、会社には正しい理解をもとに対応することが求められています。

年金関連ニュース

【令和4年4月より】国民年金手帳が廃止。年金手帳から基礎年金番号通知書へ切り替えられます。

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浅山雅人

社会保険労務士/代表

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【略歴】昭和38年生まれ、京都市出身。慶應義塾大学法学部卒業。平成7年11月にエフピオの前身である浅山社会保険労務士事務所を設立。

経営者の皆様のパートナーとなること、エフピオをお客様の手本となるような立派な会社にすることを目指しています。夢はエフピオをもっともっと広め、千葉のみならず全国、世界に知ってもらえる存在にすることです!

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年収の壁 , 法改正 ,
   

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