】パートタイマーに試用期間を設けることはできるか?<社会保険労務士石川宗一郎>

「パートさんを試用期間の満了で辞めさせたらトラブルになりました!」という相談をよくいただきます。

多くの企業で正社員用の就業規則と契約社員やパートタイマーといった非正規用の就業規則を別々に作成しています。

そこで悩ましいのが契約社員やパートタイマーの就業規則に「試用期間」を記載してもいいのか、有効なのか、という点です。

■そもそも試用期間とは?

 「試用期間」とは、労働判例上は「解約権留保付労働契約」と呼ばれます。

この意味を噛み砕きますと、「長期雇用する前提で、試しの期間を設けて能力を見極め、会社の求める水準に達しない場合には会社は解約することができる」という条件付きの労働契約だと言えます。

この労働契約の解約は、解雇となります。

この解約も通常の解雇と同じように、「客観的合理的理由と社会通念上の相当性」が認められなければ権利濫用により、無効とされてしまいます。

ただし、その認められる範囲が通常の解雇に比べて広い点が異なります。

(通常の解雇より試用期間の解雇(本採用拒否)のほうが、ハードルが少し低いと言えます)

■有期労働契約者に試用期間を設定することができるか?

そこで有期労働契約である契約社員や有期のパートタイマーに試用期間を設けることができるのか?という問題があります。労働契約法では下記のような規定が存在します。

労働契約法第17条
使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。

有期労働契約を締結している場合、やむを得ない事由が必要になります。

無期労働契約と異なり、限られた期間で契約しているのだから余程のことがない限り、契約途中での解約はできないとされているのです。

有期労働契約のパートタイマーを試用期間終了時に解雇しようとしても、少々の適格性が問題では難しいことが予想されます。

なお誤解のないように補足しますと、非正規用の就業規則に試用期間を記載すること自体が違法にはなりません。実のところ実行力は乏しいが、抑止力的な効果を狙って記載している就業規則もあるでしょう。

■バイトだからとりあえず採用してから見極めよう・・・は危険!

パートタイマーだから、バイトだからと安易に採用し、「気に入らないから試用期間で解雇」「試用期間中だから解雇自由」という誤解を持っている経営者は未だに多く、社労士の私のところへの相談も絶えません。

前述したように有期労働契約者を契約途中で解雇することは以外に難しく、紛争化したときには当初契約した契約満了日までの賃金を請求される可能性があります。

人手不足で求人を出しても応募が無く、応募があると飛びついてしまう・・・その経営者の気持ちは分かりますが、人材を見極める最低限の審査はすべきだと思います。

この記事を書いている人 
-Writer-

石川宗一郎

社会保険労務士/代表

  • youtube

【略歴】昭和59 年生まれ、千葉県八千代市出身。東邦大学卒業。大学卒業後、インターネット業界で友人と起業。その後、浅山社会保険労務士事務所(現エフピオ)へ入社。社労士業の面白さにどっぷりハマる。

日々起こる人事や労務に関する相談対応、就業規則や賃金制度の策定、買収前調査(労務デューデリジェンス)などを担当。

関連ブログ

社会保険の適用拡大~いよいよ週20時間勤務のパートタイマーも社会保険加入へ~<社会保険労務士 浅山雅人>

社会保険の適用拡大が2022年10月から中小企業にもスタートします。 来年の10月からとはいえ、企業にとって社会保険料負担は大きなもの。健康保険・厚生年金の保険料は支払い給与の約30%で、企業…

続きを読む

ダブルワークがばれるので労災申請を拒否するパートタイマーの対応

昨年9月に労災保険法でダブルワーク(副業)に対応した法改正が行われました。それまでは本業と副業の兼業をしていた人が、副業中に労災事故に遭った場合は副業の賃金をベースに補償額が決まっていました。しかし…

続きを読む

お問い合わせは、下記よりお願いいたします。

弊社の記事の無断転載を禁じます。なお、記事内容は掲載日施行の法律・情報に基づいております。本ウェブサイトに掲載する情報には充分に注意を払っていますが、その内容について保証するものではありません。社会保険労務士法人エフピオ/株式会社エフピオは本ウェブサイトの利用ならびに閲覧によって生じたいかなる損害にも責任を負いかねます。

タグ:
パートタイム , 労働契約法 , 有期雇用 , 試用期間 ,
   

関連記事

2024.11.25
東京商工リサーチ掲載記事
マイナ保険証への本格移行がはじまります<社会保険労務士 松井碧城>
2024.11.11
東京商工リサーチ掲載記事
労働時間は15分単位で勤怠システムを設定してもよいのですか?<コンサルタント 松岡藍>
2024.10.15
東京商工リサーチ掲載記事
失敗しない採用活動のポイント<社会保険労務士 小山健二>
2024.09.30
東京商工リサーチ掲載記事
年金事務所の調査を知る:最新動向<社会保険労務士 石川宗一郎>
2024.09.17
東京商工リサーチ掲載記事
面接の場での「今の給与おいくらですか?」~前職の給与に頼る初任給設定の落とし穴~<社会保険労務士 浅山雅人>
2024.09.02
東京商工リサーチ掲載記事
中小企業が導入しやすく満足度の高い福利厚生制度について<社会保険労務士 廣瀬潤>
2024.08.13
東京商工リサーチ掲載記事
健康保険証の廃止 マイナンバーカードは発行必須?<コンサルタント 鈴木大志>
2024.07.29
東京商工リサーチ掲載記事
介護休業給付の活用で介護離職を防ぎましょう!<社会保険労務士 小野田春奈>
2024.07.16
東京商工リサーチ掲載記事
デジタルマネーによる給与支払いが解禁へ<社会保険労務士 伊藤美由起>
2024.07.01
東京商工リサーチ掲載記事
介護離職を防ぐために令和7年4月より改正育児介護休業法が施行されます。<社会保険労務士 松井碧城>