【東京商工リサーチ掲載記事】70歳定年法/2021年4月から実施の見通し 定年60歳のわが社は大丈夫?
■そもそも定年年齢実態はどうなっているのか?
<厚生労働省就労条件総合調査の概況/平成29年>によると、定年制を定めている企業の割合は95.5%、このうち定年年齢を一律に定めている(職種別に定年を定めている等の制度ではない)企業は97.8%です。この一律定年年齢を定めている企業のうち、定年年齢が60歳の割合79.3%、61~64歳の割合3%、65歳16.4%、66歳以上1.4%です。
これを企業規模別にみると、企業規模1000人以上の場合、60歳90.6%、61~64歳2.7%、65歳6.7%、66歳以上0%となり、企業規模30~99人の場合は、60歳76.7%、61~64歳2.8%、65歳18.8%、65歳以上1.7%となっており、代替労働者の確保が困難な中小企業の方が高年齢者の活用に積極的な姿勢を見せています。 とはいえ、多くの企業が定年年齢60歳としている実態のなか、いくら求人難や社会保障の担い手を増やさなければという事情があるにせよ、70歳定年法とは、違和感ありありと思われる方も多いと思います。
■70歳定年法(改正高年齢者雇用安定法)とはどんな内容?
〇60歳から65歳まで
65歳までは、既に、企業は「定年廃止」「定年延長」「継続雇用制度導入」のうちどれかで処遇する義務があり、60歳の定年を65歳に延ばしたり、従業員が希望すれば同じ企業かグループ企業で嘱託や契約社員などで65歳まで継続雇用したりする必要があります。仮にこれらを実行しなければ行政指導を経て最終的には社名が公表されます。ただその実態はさきほど触れましたように、多くの企業は定年60歳と定め、60歳以降は再雇用(嘱託)のかたちで継続雇用しています。
〇65歳以降
企業が取り組む選択肢の7項目示されています。
このうち、同じ企業内で雇用を継続するのは3つで、65歳まで同様に(1)定年延長(2)定年廃止(3)契約社員や嘱託などによる再雇用となっています。これに社外でも就労機会を得られるように支援する項目が加わり、(4)他企業への再就職支援(5)フリーランスで働くための資金提供(6)起業支援(7)NPO活動などへの資金提供も認められます。ただ、他の企業への就職支援など政府が明示した7項目には実効性が不透明なものもあります。たとえば、
(1)大企業と違い、中小企業には従業員の再就職を頼める取引先はない、(2)従業員の再就職は人材派遣会社に委託する企業も多いのですが、再就職の支援だけでなく実現までどの程度責任を持つ必要があるか、(3)フリーランスや起業を選ぶ従業員に業務委託する場合、どれくらいの期間委託すれば義務を果たすことになるか不透明などなど、具体的に検討し始めると、疑問だらけです。これらは、施行までの間に厚生労働者からのQ&Aで、明らかになってくるでしょうが、一律に70歳までの雇用を義務付けられると、企業の大幅な負担増になるとの懸念があり、企業に対しては「義務」ではなく「努力義務」となります。
また、高齢者雇用制度とともに年金制度の見直しも検討されており、公的年金の受給開始年齢を70歳以降でも可能にし、その分、受給額を増やす仕組みが議論の対象となっています。
■60歳定年の見直しはすべき?
このようななか、定年60歳の制度の企業はどう対応すべきでしょうか。結論から言うと、その企業の置かれている状況に応じて、個別に判断すればよい問題です。
「70歳定年法」が実施されるとの報道等を目にすると、最低限定年は65歳にしなくてはいけないのではという質問をお受けしますが、そんなことは法律上求められておらず、企業の実態に応じて決めればよいことなのです。
ただ、社内の業務の担い手を、「若年者雇用」「女性活用」「外国人雇用」等でまかえないとするならば、先んじて「高齢者雇用」にも手をつける必要があるかもしれません。今は、新規雇用対策より、「定着率向上」対策の方が現実的かつ、優先順位が高い課題と考えられるからです。
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