】新型コロナウィルス感染症にともなう、人員削減の問題

経営者の皆さまには、タイトルからして、頭の痛い問題です。ですが、目を背けることもできませんし、綺麗ごとだけを述べるような時期でもありませんので、この問題を直視して、今回は人員削減に関する問題を取り上げたいと考えます。

海外と日本の違い

新型コロナウィルス感染症の蔓延により、海外ではすぐに失業者の急増のニュースが発表になりました。日本でも残念ながら徐々に失業者は増えていますが、日本では、無期雇用、特に正社員の立場の整理解雇は厳しく制限されている、という違いがあります。法律改正により、非正規の方の整理解雇についても、以前と比べてハードルが高くなることも予想されています。ですので、まずは、人員削減の問題として整理解雇が有効になるための条件(要件)を確認していきましょう。

整理解雇が有効になるためには

  1. 人員削減の必要性
  2. 解雇回避努力
  3. 人員選定の合理性
  4. 手続きの相当性

新型コロナウィルス感染症の影響で、今回は経営に大きな打撃を受けてしまって、ということになるのだから、必要性など当たり前ではないか、従業員だって当たり前に理解しているだろう、と思いがちですが、まずは、人員削減の必要性を、具体的な経営指標や数値を用いて、どの程度経営状態が悪化しているのか、わが社においてどの程度の人員削減が必要になるのかを、客観的資料に基づいて、従業員に説明する必要があります。殊に、対従業員に対して、常日頃わが社の営業数値や経営上の数値についてお話をする機会が少ない会社においては、「人員削減の必要性なんて、当たり前ではないか」と事業主が思っていても、首を切られる従業員側からすると温度差をもって従業員に伝わってしまう前提で、まずは真摯に伝えることを念頭においてください。

 解雇回避努力については、長くなりますので、後述します。後述する手順を、時間的な余裕がなく、すべて行うことはできないということも、当然考えられます。ただし今回の新型コロナウィルス感染症の対応について、使用者として合理的に考えられる手段で、真摯に十分な努力を尽くしましたか?と後になって問われることになりますので、心の隅においておいてください。

 人員選定の合理性については、説明のつかない人員選定を行っていないかということを、常に問いながら進めてください。勤務地や所属部署、現在担当している業務、会社に対する貢献度や、従業員自身の年齢、家族構成、勤務成績などなど、一部の方の整理解雇であれば、「なぜ、私が」という質問に答えられるような、客観的で合理的な基準に基づいての人選が必要となります。

 最後に手続きの相当性について、です。整理解雇を実施するまでの間に、労働者(労働組合があれば労働組合)に対して、整理解雇の必要性や、その具体的な内容(整理解雇の時期や、整理解雇の規模、その方法)について、十分に説明をしてください。また、経営者の皆様の言葉をもって、丁寧に説明を行ってください。誠意を尽くして、協議・交渉をおこなったかどうかが、のちに争われた際に、問われます。これらを全く行うことなく、抜き打ちでの整理解雇を実施することは、認められません。

解雇回避努力について

さきほどの、整理解雇が有効になるための要件のうち、2.解雇回避努力義務について説明します。ポイントは、整理解雇を行うまえに、労働者に対する打撃が少ない他の手段をどれだけ使用者が尽くしたか、という点です。使用者は、人員削減を行う場合には、信義則上、下記のような手段を用いることで、解雇を回避するための努力をする義務がある、とされています。あくまで整理解雇は最終手段で、その前に下記のような対処で、解雇を回避できたのではないか、と後になって問われるわけです。

  1.  経費の削減:交際費、広告費、交通費などの削減を行ってください。整理解雇の前に、他の会社の支出を抑える努力を行いましたか?経費削減を行いましたか?)
  2.  役員報酬の減額:整理解雇の前に、経営者が自ら身を切る努力をしないと正社員を解雇できません
  3.  新規採用や求人募集の中止 :有料の求人サイトへの掲載はストップしていますか?新規採用できるほど人材が必要なのになぜ?と問われてしまいます
  4.  時間外労働の中止 :時間外労働ができるということであれば、労働力は不足している、ととらえられます。時間外労働を中止することが求められます。
  5.  正社員の昇給停止、賞与の抑制、削減 :整理解雇の前に、既存の正社員の昇給停止、賞与の抑制・削減を行いましたか?整理解雇の前に、非常事態なので「行わないこと」で支出を抑えられることもあるはずです。
  6.  配置転換、出向 :他の部門で配置転換が可能な場合があるかどうか、検討しましょう
  7.  一時帰休(休業)+雇用調整助成金の申請 :毎週のように、雇用調整助成金の要件緩和が発表されています。雇用調整助成金の申請もせずに、整理解雇するなんて、と問われないようにしましょう。
  8. 有期雇用の雇い止め :正社員の整理解雇をする前には有期雇用の雇い止めをするという順序があります。
  9.  希望退職の募集(もしくは退職勧奨) :どうしても正社員に退職してもらう必要があったとしても整理解雇を選択する前に希望退職の募集もしくは退職勧奨により、解雇では無く話し合いで合意の上退職してもらう努力をする必要があります

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タグ:
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