】営業秘密漏洩リスクをどう防ぐか?不正競争防止法違反の疑いで「かっぱ寿司」社長逮捕報道で<社会保険労務士 浅山雅人>

年々営業機密の漏洩リスクは高まっている

回転ずし店「かっぱ寿司」を運営するカッパ・クリエイト社長が不正競争防止法の疑いで逮捕された報道がありました。

その理由は、転職前に在籍していた「はま寿司」の仕入れ情報を不正に持ち出した疑いがあるということです。

海外では機密情報の管理は厳格化方向が強まっていますが、我が国においては、まだまだ企業の危機意識が不十分な状況です。

情報処理推進機構(IPA)の2020年の調査で、情報漏洩が発生したと回答した企業の漏洩ルートは「中途退職者」が36.3%と高い状況にかかわらず、漏洩対策として従業員と秘密保持契約を結んでいる企業は56.6%で、37.4%が「締結していない」という結果となっています。

今後ますます雇用の流動化が進むなかで、営業機密漏洩リスクへの対策は、中小企業においても経営課題としてとらえられるべきものと考えます。

そもそも不正競争防止法って?

企業が営業秘密漏洩リスクを検討する前に、まずは「不正競争防止法」を知る必要があります。

同法では、営業機密の持ち出し等は、不正競争防止法によって違法とされており、民事上の措置として損害賠償請求、差止め請求(営業差止めなど)等が可能となり、されに刑事罰(営業秘密侵害罪:10年以下の罰金または1000万円以下の罰金)も用意されています。

ただし営業秘密に該当するには、「秘密管理性」が必要とされています。

裁判例でも、営業秘密がPC内に格納されていたものの、「PCのログインパスワードが付箋で画面横に貼ってあった」などの理由で、情報のアクセスが制限されていたとは判断できないとされています。したがって、書類にマル秘マークを押したり、パスワードを設定していれば大丈夫ではなく、その管理の運用が適切でなければ、「秘密管理性」は認められず、同法の保護を受けることはできません。

企業にとっては漏洩を防止したい営業秘密を特定し、当該情報にアクセスする従業員の範囲を絞ったうえで、それを実行ならしめるための施策を講じる必要があります。

「秘密管理規程」を作成するだけには満足せず、きちんと運用ができてこそとなります。

営業秘密保持誓約書の必要性について

中途退職者からの情報漏洩を防ぐためには、規程の整備のほかに従業員から「秘密保持契約書」と取る必要があります。
その理由はつぎのとおりです。
(1)特段の誓約書がなければ、退職後は秘密保持義務が消滅すると判断される可能性
(2)不正競争防止法の保護を受けるため(上述の「秘密管理性」が認められるためにも、秘密保持契約の有無および秘密の特定は大事)
(3)従業員の自覚(意識)を高めるため

秘密保持契約書を結ぶにあたって重要な事項をいくつかあります。

★誓約書の内容
誓約の対象を曖昧あるいは広範囲にし過ぎず、きちんと特定すること
裁判においても、秘密保持の負担(従業員側)は、合理的な範囲にとどまっていると認められるときは、公序良俗に反せず無効とは言えないと解するのが相当とし、「顧客名簿及び取引内容に関わる事項」「製品の製造過程、価格に関わる事項」という例示されていて範囲が無限定でないとして、誓約書の効力が認められました。

★誓約書を取る時期
誓約書は入社時に取ればよいのではなく、タイミングに応じて取るべきです。例えば、昇進時、プロジェクト参加時、退職時などです。なぜなら、その時々で職務の内容も変化し、守るべき秘密情報が異なるからです。

★競業禁止の誓約
秘密保持契約書を締結すれば安心かというとそうではありません。営業秘密を漏洩された場合の立証責任は、企業側にあるため証拠が必ずそろうわけではありません。そこで、そもそも営業の競合会社に転職されないよう、転職禁止(起業禁止)を規制するという誓約を加える場合があります。ただし、この場合は「職業選択の自由」との観点から、より制限内容の特定が求められます。制限対象者、制限期間ならびに職種や、制限することへの対価(在職時に秘密保持手当支給など)も検討することになります。

この記事を書いている人 
-Writer-

浅山雅人

社会保険労務士/代表

  • youtube
  • podcast

【略歴】昭和38年生まれ、京都市出身。慶應義塾大学法学部卒業。平成7年11月にエフピオの前身である浅山社会保険労務士事務所を設立。

経営者の皆様のパートナーとなること、エフピオをお客様の手本となるような立派な会社にすることを目指しています。夢はエフピオをもっともっと広め、千葉のみならず全国、世界に知ってもらえる存在にすることです!

関連ブログ

~契約書チェックの重要性-その①~<よつば総合法律事務所 弁護士 村岡 つばさ>

よつば総合法律事務所 弁護士の村岡つばさです。 1 はじめに 当事務所は、契約書のリーガルチェック業務にも力を入れています。顧問先が多いこともあり、色々な契約書チェックの依頼が来るのです…

続きを読む

~契約書チェックの重要性-その②~<よつば総合法律事務所 弁護士 村岡 つばさ>

よつば総合法律事務所 弁護士の村岡つばさです。 1 はじめに 前回の記事に引き続き、今回も、自社で契約書チェックをする際に最低限確認いただきたいポイントをお話させていただきます。 …

続きを読む

~従業員に損害賠償請求をする際の注意点①~<よつば総合法律事務所 弁護士 村岡 つばさ>

よつば総合法律事務所 弁護士の村岡つばさです。 事故を起こして車両を壊した、会社のお金を横領した、十分に引継ぎをしないまま急に会社を辞めた、退職後に競業行為をしている…等々、理由は様々ですが、…

続きを読む

~従業員に損害賠償請求をする際の注意点②~<よつば総合法律事務所 弁護士 村岡 つばさ>

よつば総合法律事務所 弁護士の村岡つばさです。 前回は、従業員に損害賠償請求をする際の、行為類型ごとの注意点をお話しましたが、今回は、全ての行為類型に共通する注意点をお話させていただきます。 …

続きを読む

お問い合わせは、下記よりお願いいたします。

弊社の記事の無断転載を禁じます。なお、記事内容は掲載日施行の法律・情報に基づいております。本ウェブサイトに掲載する情報には充分に注意を払っていますが、その内容について保証するものではありません。社会保険労務士法人エフピオ/株式会社エフピオは本ウェブサイトの利用ならびに閲覧によって生じたいかなる損害にも責任を負いかねます。

タグ:
契約書 , 就業規則 , 懲戒処分 , 社会保険労務士 , 社労士 ,
   

関連記事

2024.04.15
東京商工リサーチ掲載記事
有休休暇の賃金計算~日によって勤務時間がバラバラのときは?~<社会保険労務士 間庭基也>
2024.04.01
東京商工リサーチ掲載記事
『社員研修の目的と企画・導入』について<社会保険労務士 廣瀬潤>
2024.03.04
東京商工リサーチ掲載記事
週10時間勤務で、雇用保険加入へ ~ダブルワーク時の労災保険、雇用保険、社会保険の取り扱いはどうなるの?~<社会保険労務士 浅山雅人>
2024.02.28
東京商工リサーチ掲載記事
マイナンバーカードの健康保険証 利用されてますか?<社会保険労務士 伊藤美由起>
2024.02.05
東京商工リサーチ掲載記事
労災で休業が発生した場合の休業補償のイロハ ~知っておくべき、基礎知識~ <社会保険労務士 小野田春奈>
2024.01.22
東京商工リサーチ掲載記事
雇用保険=失業保険にあらず。人材育成に活用を!<社会保険労務士 松井 碧城>
2023.12.25
東京商工リサーチ掲載記事
建設業だったら協定さえ結んでおけば、月45時間超えて残業させても大丈夫なんですよね?<コンサルタント 松岡藍>
2023.11.27
東京商工リサーチ掲載記事
「会社分割」における労働契約の承継<社会保険労務士 小山健二>
2023.11.20
東京商工リサーチ掲載記事
社長の金庫に入れられた就業規則は有効か?<社会保険労務士 石川 宗一郎>
2023.10.30
東京商工リサーチ掲載記事
年収の壁・支援強化パッケージの落とし穴~この2年間、年収130万円超えても被扶養者になれる?は誤解~<社会保険労務士 浅山雅人>