】経営に与える影響が大きい年金制度の改正

短時間労働者の社会保険適用拡大、年金の受給開始年齢を75歳まで引き上げる等の年金改革法が令和2年5月29日に成立しました。働く高齢者の年金を減りにくくするなどして高齢者の就労を後押しするほか、パート等への社会保険の適用を広げて多様な働き方に対応することが目的です。

特に短時間労働者への社会保険適用拡大(加入範囲の拡大)は、企業経営に大きな影響を与えることになりますので、このたびの年金改正についての主なポイントをまとめてみました。

(1)社会保険の加入範囲の拡大

 現在の社会保険料は、支払った給与(標準報酬)に対して、健康保険9.75%、介護保険1.79%、厚生年金保険18.3%、合計29.83%を乗じた金額がその金額(※)となります。

※健康保険料率は千葉県の協会けんぽの場合

この金額を労使折半する仕組みですので、大雑把にいうと給与の30%が社会保険料で、労働者と会社の双方が15%ずつ負担する仕組みです。仮に30万円の給与を支払うと、社会保険料が9万円となり、労使は、その半額である45,000円を毎月支払うことになります。

 今回の拡大は、下記の現行のルールを企業規模が小さい企業にも適用するというものです。したがって、短時間労働者(パートタイマー)を活用している企業においては、大きな負担を強いられることになります。

<現行/①~④をすべて満たした場合に社会保険の加入義務>1週間の所定労働時間が20時間以上であること

①月額賃金88,000円以上であること

③当該事業所に継続して1年以上使用されることが見込まれること

④学生でないこと

⑤被保険者が常時501人以上の企業であること

<加入範囲拡大のスケジュール>

令和4年10月より、101人以上の企業も対象に

 令和6年10月より、51人以上の企業も対象に

(2)在職中の年金受給の在り方の見直し

現行の制度では、60歳~64歳では、月収と年金の一カ月分の合計が28万円を超えると、超えた金額の半分が年金から減額されます。これが令和4年4月より、この28万円が47万円に引き上がり、減額される人が大きく減り長く働くことの後押しになりそうです。(働き損の現状の解消)

(3)年金受給開始年齢の選択肢の拡大

原則65歳に受給開始となる年金は、現在70歳まで繰り下げが可能ですが、令和4年4月より、選択肢が75歳まで延びます。令和4年4月時点で70歳未満の人が対象です。仮に年金開始年齢を75歳までに繰り下げた場合は、その年金額は84%増加することになります。

(4)高年齢雇用継続給付の改正(雇用保険)

これは年金改革法の内容ではありませんが、60歳以降の継続雇用に関係しますので、説明を加えます。

高年齢雇用継続給付は雇用保険の制度で、60歳以降も雇用が継続され、賃金が60歳到達時の賃金と比べて75%未満に低下した場合に、労働者本人へ直接一定額が給付される制度です。(60歳から65歳まで)

これが、令和7年4月より、現行の給付額から10%減額されます。

年金関連ニュース

【令和4年4月より】国民年金手帳が廃止。年金手帳から基礎年金番号通知書へ切り替えられます。

関連ブログ

公的年金シミュレーター!?年金の「見える化」Webサイトがオープンしました<コンサルタント 津田千尋>

令和4年4月25日より試験運用が開始された、公的年金シミュレーターをご存じですか?スマートフォンやタブレットで、年金額を試算できるツールとして「公的年金シミュレーター」がリリースされました。 …

続きを読む

2022年10月の厚生年金の適用拡大について<社会保険労務士 石川宗一郎>

厚生労働省からも、本格的にPRが始まりました。下記の特設サイトがオープンし、厚生年金の適用拡大への対応、待ったなし、になっております。今回は、この厚生年金の適用拡大について取り上げ、2022年10月…

続きを読む

あれ?ねんきん定期便のレイアウトが変更されている!ねんきん定期便の変更からみる、高齢者雇用と年金制度改革

1.平成31年度送付分の「ねんきん定期便」のレイアウトが一部変更に  日本年金機構のホームページによると、平成31年度送付分(平成31年4月以降)のレイアウトが一部変更になっています。下記は、…

続きを読む

2022年10月より従業員数100名超の企業様はご準備できていますか?~社会保険加入の適用拡大<社会保険労務士 小林沙奈江>

千葉の社労士の小林です。今回は企業負担が大きくなるニュースをご案内します。 現在、従業員数(厚生年金の被保険者数)が500名を超える企業では、正社員の1週間の所定労働時間および1ヶ月の所定労働…

続きを読む

お問い合わせは、下記よりお願いいたします。

弊社の記事の無断転載を禁じます。なお、記事内容は掲載日施行の法律・情報に基づいております。本ウェブサイトに掲載する情報には充分に注意を払っていますが、その内容について保証するものではありません。社会保険労務士法人エフピオ/株式会社エフピオは本ウェブサイトの利用ならびに閲覧によって生じたいかなる損害にも責任を負いかねます。

タグ:
年金 , 社会保険 , 高齢者雇用 ,
   

関連記事

2024.11.25
東京商工リサーチ掲載記事
マイナ保険証への本格移行がはじまります<社会保険労務士 松井碧城>
2024.11.11
東京商工リサーチ掲載記事
労働時間は15分単位で勤怠システムを設定してもよいのですか?<コンサルタント 松岡藍>
2024.10.15
東京商工リサーチ掲載記事
失敗しない採用活動のポイント<社会保険労務士 小山健二>
2024.09.30
東京商工リサーチ掲載記事
年金事務所の調査を知る:最新動向<社会保険労務士 石川宗一郎>
2024.09.17
東京商工リサーチ掲載記事
面接の場での「今の給与おいくらですか?」~前職の給与に頼る初任給設定の落とし穴~<社会保険労務士 浅山雅人>
2024.09.02
東京商工リサーチ掲載記事
中小企業が導入しやすく満足度の高い福利厚生制度について<社会保険労務士 廣瀬潤>
2024.08.13
東京商工リサーチ掲載記事
健康保険証の廃止 マイナンバーカードは発行必須?<コンサルタント 鈴木大志>
2024.07.29
東京商工リサーチ掲載記事
介護休業給付の活用で介護離職を防ぎましょう!<社会保険労務士 小野田春奈>
2024.07.16
東京商工リサーチ掲載記事
デジタルマネーによる給与支払いが解禁へ<社会保険労務士 伊藤美由起>
2024.07.01
東京商工リサーチ掲載記事
介護離職を防ぐために令和7年4月より改正育児介護休業法が施行されます。<社会保険労務士 松井碧城>