】ワクチン接種手当は割増賃金の算定基礎にすべきか?<コンサルタント 松岡藍>

■はじめに

みなさん初めまして。

社会保険労務士法人エフピオのコンサルタントの松岡藍です。

わたしの記事では、コンサルタントとしてはまだまだ成長途中のわたしが日々学んだことをみなさんにできるだけわかりやすくお伝えしていくことをテーマにしようと考えています。

わたしの最近の業務では、就業規則の作成・改訂をお手伝いさせていただく機会がとても多いです。

そこで今回は、就業規則改訂作業中に気になった「割増賃金の算定基礎」についてお話しさせていただきます。

■ワクチン接種手当

 賃金規程改訂のご依頼をいただき現在支給している手当は他にないか担当する企業様に確認したところ、「割増賃金の対象にはしていないのですが、ワクチン接種をした従業員に対して○○円を上限として支給しています。」とのお答えをいただきました。

 最近は新型コロナウイルスのワクチン接種をした従業員に対して一定額の手当を支給する企業様も増えていると耳にします。後述しますが、割増賃金の算定基礎から除かれる「臨時に支払われた賃金」として除外できるのか、いや、これが定期的(例えば毎年1回、半年に1回)であれば、「臨時」とは言えない可能性があります。でも感覚的には割増賃金の算定基礎にはならなさそう。

 このワクチン接種手当は割増賃金の算定基礎とすべきか?しないのであればその根拠は?というのが今回のテーマです。

■割増賃金とは?

 そもそも割増賃金とは、簡単に申し上げますと使用者が労働者に対し時間外・休日・深夜労働をさせた場合に支払わなければならないプラスαの賃金のことです。

 労働基準法(以下「法」)で最低限の割増率も定められていて、時間外労働は2割5分以上、休日労働は3割5分以上、深夜労働は2割五分以上です(法第37条第1項、同第4項)。

1か月60時間以上の時間外労働では5割以上という制限等細かいお話は今回のテーマからはズレてしまうので割愛させていただきます。

■割増賃金の計算

 次に、割増賃金額ですが、1時間当たりの賃金額×時間外・休日・深夜労働時間×割増率で計算されます。

この1時間当たりの賃金額を算出するために必要な割増賃金の算定基礎となる賃金には除外事項があります。以下除外事項は限定列挙であって、これ以外は除外できません(法第37条第5項、法施行規則第21条)。

①家族手当

②通勤手当

③別居手当

④子女教育手当

⑤住宅手当

⑥臨時に支払われた手当

⑦1か月を超える期間ごとに支払われる手当

■割増賃金の算定基礎にならない根拠

さて、色々調べたものの明確な答えが見つからず事務所の先輩に教えを乞いにいくと「所定労働時間の労働に対して支払われていないから除外賃金以前にそもそも対象外」との回答をもらい、示してもらった厚生労働省のリーフレット

https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/dl/040324-5a.pdf

を読むと確かにその旨記載がありました。なるほど。

ただ、そのリーフレットにさらっと書かれている「所定労働時間の労働に対して」という文言は法第37条で読んだことがありません。

法も法施行規則を探しても見つかりませんでしたので労働基準監督署に確認してみたところ、コンメンタール(簡単にいうと条文の解説書)にその根拠があることがわかりました。

法第37条第1項「通常の労働時間」の解釈として「所定労働時間の労働」がでてきます。やっとすっきりしました。

■おわりに

ということで、わたしの担当する企業様が支給しているワクチン接種手当は、割増賃金の算定基礎にいれる必要はありませんでした。

時間はかかってしまうのですが、根拠条文や根拠となる判例・裁判例から紐解いていく作業はとても興味深く楽しいです。

このように日々気になったことを発信していきたいと思いますのでお付き合いいただければ幸いです。

※もちろん、ワクチン接種手当という名称なら同じ結論というわけではなく手当の性質によって結論は変わる可能性がありますのでご注意ください。

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タグ:
コロナウイルス , ワクチン接種 , 割増賃金 , 賃金 ,
   

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