】有給休暇の申出期限に決まりはあるのでしょうか?<社会保険労務士 小山健二>

「有給休暇は法律通りに使用してもらっていますが、前日や当日の急な使用連絡が多くて困っている。」というようなご相談を頂くことがあります。


会社は、有給休暇の使用にあたり、「○日前までに会社に届け出ること」というルールを設けることはできるのでしょうか?

結論としては、そのようなルールを設けることは可能です。

いくつか注意点もありますので、以下解説いたします。

1.有給休暇使用の原則

まず、有給休暇は、入社日から6か月を経過(その後1年を経過)し、その期間中の所定労働日について8割以上出勤した従業員に付与されます。

付与日数は労働基準法で最低日数が定められています。

では、付与された有給休暇をいつ使用できるかというと、法律上は従業員が指定した日に使用できることになっています(これを「時季指定権」といいます。)。ただし、指定された日に有給休暇を使用させることが「事業の正常な運営を妨げる場合」においては、会社は他の日に使用させることができます(これを「時季変更権」といいます。)。これは、会社は直前に欠員が出る場合には代替要員を確保しなければならない等の事情もあるからです。

またよく相談を受けるのですが、会社が承認して初めて使用できるわけではなく、事業の正常な運営に支障が出る場合を除いては、従業員が指定した日に使用させなければならないということになります。

上記使用日の原則の例外として、会社と労働者の過半数で組織する労働組合等との書面による協定により各従業員の使用日を指定すること、10日以上の有給休暇が付与されたものが付与日から1年の間に5日使用できていない場合に会社が使用日を指定することも認められています。

2.申出期限を設けることは可能か?

就業規則にルールを定めることで可能です。

ただし、「その期限までに申出がないと業務が全く回らなくなってしまう」というような合理的な理由が存在する範囲でルールを定めることが必要です。就業規則が無い事業場では、雇用契約書等に定めることになります。

法律上、ここまでの明文化はされていませんが、過去の裁判例で「年休の請求を2日前までに行うこととしている就業規則は、時季を指定すべき時期について原則的な制限を定めたものとして合理性がある」とされています。(電電公社此花電報電話局事件(最高裁判決・昭和57年3月18日))

これは、「期限までに申出がないと使用を認めない」ということが許されるわけではなく、「指定された期限までに申出がないと、代替要員の確保も難しいから、時季変更権が行使しやすい。」という趣旨として解釈されます。

いずれにしても、期限までに申出がなくても会社は代替要員の確保等により使用できるよう対応し、どうしても「事業の正常な運営を妨げる場合」に限り、違う日に使用してもらうような対応を行うことになります。

3.申出期限の程度

では申出期限を設定する場合、何日前くらいとするのが適切でしょうか。

この件についても、明確な基準はありませんが、有給休暇使用日の前日~1週間前までとする会社が多いと感じます。1か月のシフト勤務を行っている会社については、1か月前や希望シフト提出日までといった規定も拝見します。前述の裁判例も含め、争いになった場合でも1週間前程度の設定であれば比較的認められやすいようです。

1か月前や希望シフト提出日まで等とルール化した場合は、労使双方が円滑な職場環境を保つためのルールですので、従業員は正当な理由がある場合を除いては期限までに申出を行い、会社は期限を過ぎた場合でも、一方的に使用を拒んだり時季変更権を行使したりせず、使用に向けた配慮を行うことが望ましいと考えます。


以上が、有給休暇の申出期限のお話となります。

有給休暇については、従業員の関心が高い労働条件です。

細かな点ではありますが、就業規則によるルール化や、実際に申出があった際の対応などは適切な対応が必要となりますので、お悩みやご相談などありましたら、お気軽にお声がけください。

この記事を書いている人 
-Writer-

小山健二

特定社会保険労務士

【略歴】昭和51年生まれ、東京都出身。駒澤大学文学部社会学科卒業。 専門商社、人材サービス業を経て社会保険労務士法人で勤務し、令和4年にエフピオへ入社。

人事労務のみならず、経営企画、仕入、営業部門での多様な経験から、全体最適の視点で業務遂行を心がけています。事業会社、専門家双方でM&Aプロセス、DD実務経験がある。

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