】仕事させて大丈夫かな?と迷ったら<社会保険労務士 石川宗一郎>

この数か月、経営者の方からの、従業員の方の健康を心配するご相談、従業員の方の労務提供の可否を判断したい、というご相談を多くいただきました。今回は、労務提供の可否(就労の可否)について、少し取り上げてみます。

最近は、「働き方改革」の影響により、企業側の責任、安全配慮義務に注目が集まっています。安全配慮義務は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」(平成20年3月施行・労働契約法第5条)というものです。ただし今回は、この安全配慮義務だけではなく、労働者側にも、自分の健康は自分で守る(セルフメディケーション)、自身の健康を守るための努力である「自己保健義務」がある点についても、しっかりと触れておきたいと考えます。

さきほどの安全配慮義務の書かれた労働契約法には、第3条第4項に、「労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。」とあります。つまり、企業側の安全配慮義務だけではなく、労使間の信義則上の義務に基づき、労働者側にも、義務を履行しなければならないと定められています。労働者自身にも健康管理に関する労働者自身の義務である「自己保健義務」があるといえます。

健康管理は、労働者自身の身体及び心の内面の問題であるため、労働者自身が自分の健康は自分で守る(保持する)というセルフメディケーションを積極的に行わないと、企業側では十分な健康管理ができません。当たり前のことですが、自分の健康は自分で守る、労働者自身が健康を守るということが、「自己保健義務を履行する」ということになります。

ご相談の中には、ケガや病気もありますが、メンタルヘルスについてのご相談も多いです。特に、メンタルヘルスについては、通常のケガや病気の場合以上に、この「自己保健義務」が重要です。何より本人の心の問題であり、本人の私生活や、プライバシーの領域に属するものでもあります。

1.なんとなく、仕事をする気分になれない、という従業員。気分がよければ、他の方と変わらない仕事ができるけれど、朝になってみないとどうかはよくわからない。

2.プライベートでもともとの持病を持っている。薬をキチンと飲んでいれば仕事は問題なくできる状態らしい。でも、どうも健康診断の結果(数値)を見ていると、ちゃんと薬を飲んでいるのかなぁ、と不安になる。

3.今度面接に来てくれた方が、能力は高そうで良さそうで採用しようと思う。でも、健康上の理由で、きちんと毎日出勤してくれるかどうか、不安が残る。

さて、このような1,2,3のような(すべて別々のケースです)従業員さんが(3は、採用前なので面接者ですが)いたら、どうしますか?そうです。まずは直接該当の従業員さんと直接その病気のお話をする、面談をする、から始めてください。特に3.のケースは入社前ですので、そもそも採用を決めるかどうか、慎重に判断すべきケースです。入社面接の際に、本人の健康のことを確認していますか?自分の健康のことは当然に(採用される側が)病気のことを申告すると思っていた(企業側の見方)、聞かれなかったから不要と思って答えなかった(採用される側の見方)という、トラブルになったら必ず出てくる言い分がこれらです。採用面接の際、聞くべきことはきちんと聞いてください。「健康」って、仕事に関係のないことですか?そんなことはありません。健康でなければ仕事できません。企業には安全配慮義務もありますが、労働者にも自己保健義務もあるんです。仕事に関係のないことまで踏み入って面接時に聞いてはいけませんが、毎日仕事をお願いしようとしているのに、毎日仕事に来てくれるかどうかが不安、では、そもそも労働契約が締結できません。

1.2.のケースも、従業員さんときちんと直接面談してください。最近の健康状態、企業側から見て不安なことがあれば、直接伝えてください。従業員さんが自己保健義務を履行しているかどうか確認しましょう。健康に関しての判断は、本職の方にお任せしないと企業側で判断はできませんので、必要に応じて、医療機関への受診を勧めてください(受診勧奨)。「あなたの健康を心配しています」と伝える事から始めましょう。責任感の強い従業員さんは、会社を休んではいけない、とか、会社に病気のことを伝えるのに抵抗がある、医療機関を受診すると自分自身が病気であると認識してしまって仕事ができなくなってしまう、などと話されるかたもいらっしゃいます。さて、どうしますか?どう答えましょうか?

はい。「自己保健義務」ですね。

繰り返しになりますが、企業側には、安全配慮義務があり、従業員側の安全に配慮しなければならないのと同時に、従業員側にも自己保健義務があります。「労務の提供ができる状態」(仕事をするという気持ちだけではなく、実際に仕事ができて、仕事(労務)を会社に提供できることをいいます)にする義務が従業員側には(当然に)あります、というお話をしてください。医療機関に受診していなければ、受診してもらう。通院しているのであれば、主治医にまず労務提供ができるということを(フルタイムの勤務であればフルタイムの時間帯の勤務ができるということを)診断書を記載していただく、というステップに進みます。

産業医を選任している事業場では、そもそも、産業医さんに早期につないで、就労可否や産業医面談を日常的に行っていただいているケースですので、このような問題にはあまり触れることはないかもしれません。問題は、産業医さんを選任していない事業所でこのような相談が多く発生している、ということです。

産業医が選任されていない事業所では、産業保健総合支援センター地域窓口(地域産業保健センター)の登録医に相談することもできます。弊所では、産業医を選任されていないお客様にも、必要に応じて、就労可否のご相談をおうけできる産業医を紹介することも行っております。

執筆 津田千尋

津田千尋

この記事を書いている人 
-Writer-

石川宗一郎

社会保険労務士/代表

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【略歴】昭和59 年生まれ、千葉県八千代市出身。東邦大学卒業。大学卒業後、インターネット業界で友人と起業。その後、浅山社会保険労務士事務所(現エフピオ)へ入社。社労士業の面白さにどっぷりハマる。

日々起こる人事や労務に関する相談対応、就業規則や賃金制度の策定、買収前調査(労務デューデリジェンス)などを担当。

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