【社労士のコラム】「限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置」の具体例<社会保険労務士 石川宗一郎>
36協定(時間外・休日労働協定)が令和3月4月からまたまた新フォーマットなります。…と言っても今回は捺印が省略されチェックボックス方式になるだけですが。しかしながら45時間を超え特別条項を締結する際に記載する「限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置」に何を記載していいか?というご質問が多く寄せられています。
36協定の裏面には①~⑨通り(⑩その他も入れると10通り)の中から選択するように記載されています。この記事ではその具体的な例を解説します。
「限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置」(健康確保措置)の具体例
(1)医師による面接指導
労働時間が一定時間を超えた労働者に医師による面接指導を実施すること
対応:月間の時間外労働時間が60時間(特別条項で定める上限時間を下回る時間を設定)を超える労働者からの申し出あった場合に医師による面接指導を実施する。
解説:現在、面接指導の対象となるのは、「時間外・休日労働時間が1月当たり80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる者」であり、その対象となる労働者が申出ることで面接指導が実施されます。(労働安全衛生法第66条の8第1項、労働安全衛生規則第52条の2及び第52条の3)
確保措置でいう「医師による面接指導」は、前述の基準に該当しない者のうち事業所(企業)が独自に定める基準(一定時間)を超えた労働者に対して行うものをいいます。具体的には、面接対象者の基準を1月当たり45時間超80時間以下のうち任意の時間数まで事業所独自の基準として引き下げる場合があると考えます。
(2)深夜業制限
労働基準法第37条第4項に規定する時刻の間(午後10時から午前5時)において労働させる回数を1箇月について一定回数以内とすること
対応:従業員の深夜勤務回数を月間3回以内にする。(もともと深夜勤務に従事しない労働者がいる場合は、他の措置も選択する必要あり)
解説:改正労働基準法に関するQ&Aの回答で取り上げられています。その回答では、目安となる回数について、労働安全衛生法第66条の2の自発的健康診断の要件である「自発的健康診断を受けた日前6か月の深夜業の月平均が4回以上」を参考とすることが考えられるとしています。自発的健康診断とは、深夜業に従事する労働者が法定の健康診断(6か月に1回)に加えて自発的に受診する健康診断のことです。
また回答では加えて、この制限の対象に所定労働時間内の深夜業(交代制勤務など)の回数制限も含まれること。その場合には、事業場の実情に合わせて深夜業の回数制限以外の健康確保措置を講ずることが考えられるとしています
(3)終業から始業までの休息時間の確保(勤務間インターバル)
終業から始業までに一定時間以上の継続した休息時間を確保すること
対応:9時間の勤務間インターバルを実施する。
解説:改正労働基準法では、「休息時間」を使用者の拘束を受けない時間と定義したうえで、休息時間の長さを含めた具体的な取り扱いは、各事業場の業務の実態等を踏まえて協定すべきとしています。この休息時間とは、労働時間等設定改善法で事業主の努力義務とされた「勤務間インターバル」のことであり、9時間以上の休息時間の新規導入、適用拡大などに加えて一定の取組を行った事業主に対する助成金も設定されています。
(4)代償休日・特別な休暇の付与
労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、代償休日又は特別な休暇を付与すること
対応:休日に出勤した場合に代償休暇(代休)を付与する。
月間60時間超える時間外労働があった場合、その翌月にリフレッシュ休暇を付与する。(リフレッシュ休暇≠年次有給休暇)
解説:代償休暇(いわゆる代休)は、休日労働、長時間の時間外労働などが行われた場合に、その代償として以後の特定の労働日を休みとするものです。休日労働の実施前に休日を振り替えること(振替休日)とは別の取扱いであり、休日労働分の割増賃金を支払う必要があります。また、特別な休暇とは、特に配慮を必要とする労働者に対する休暇制度で、その目的や取得形態を労使協議により任意で設定できる法定外休暇(リフレッシュ休暇など)のことです。
(5)健康診断
労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、健康診断を実施すること
対応:月間60時間超の時間外労働を行った労働者に対し、定期健康診断のほかに毎年4月または10月のいずれかに別途健康診断を実施する。
解説:法定の健康診断、例えば、年1回の一般健康診断(深夜業などの特定業務従事者は6か月に1回)などに加えて事業所(企業)独自の健康診断を行うことです。
(6)連続休暇の取得
年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めてその取得を促進すること
対応:暦の関係で休日が飛び石となっている場合に年次有給休暇を取得して長期休暇化させるブリッジホリデーを実施する。(年次有給休暇の計画的付与協定の締結)
解説:取得促進の施策は、労使協議を行い協定で定める必要があります。また、促進の効果を上げるため、そして効果の具体的検証と改善のためにも、具体的な取り組み手段やツールを協定しておく方が望ましいと考えます。
(7)心とからだの相談窓口の設置
心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること
対応:心とからだの相談窓口を社内に設置する。周知は、案内文の社内掲示による。
解説:改正労働基準法に関するQ&Aの回答によれば、窓口を設置することで、法律上の義務は果たしたことになります。また、窓口の設置について労働者へ十分に周知します。相談窓口に関して記録を取って保存する事項とされたのは、①窓口を設置してその旨を労働者に周知したこと、②協定の有効期間中に受け付けた相談件数に関することです。Q&Aでは「受け付けた相談件数に関すること」を記録するとしていますが、相談があれば、何らかの対応が必要か否かの検討が続きますから、実務上はその後の対応(問題はなかったのであればその旨)も記録し保存する方が良いと考えます。また、相談件数がゼロであればその旨を記録します。
(8)配置転換
労働者の勤務状況及びその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換をすること
対応:限度時間を超えた労働者からの申し出があった場合に、配置転換等の異動を実施する。
解説:時間外労働の原因の抜本的な除去につながり、事業主の安全(健康)配慮義務の履行としても主張しやすい面はありますが、中小企業にとっては実施へのハードルが高い項目です。
(9)産業医等による助言・指導や保健指導
必要に応じて、産業医等による助言・指導を受け、又は労働者に産業医等による保健指導を受けさせること
対応:限度時間を超えて労働する労働者から申し出あった場合は、産業医等による助言・指導を受け、又は労働者に産業医等による保健指導を受けさせる。
解説:面接指導以外の産業医等からの助言・指導などの援助を指しています。ただ、援助申出の方法、事前の産業医との時間外労働状況に関する情報の共有、産業医の援助と関連して他の措置が必要となった場合の対応などの制度設計をしっかりしておく必要があると考えます。
<記録>健康福祉確保措置の実施状況に関する記録は、当該36協定の有効期間中及び当該有効期間の満了後3年間保存しなければならないとされています。
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