【東京商工リサーチ掲載記事】就業規則流用の落とし穴~本当は怖い休職制度の話~<社会保険労務士 石川宗一郎>
ここのところ立て続けに企業から休職に関する相談が続きましたので、今回は休職制度について堀下げて見たいと思います。傷病の休職制度は設計を誤ると思わぬ問題を引き起こします。
■そもそも休職制度とは?
休職制度とは、傷病や出向等の理由で、一時的に労務提供ができなくなった場合であっても、従業員としての身分を残して解雇を猶予する制度です。本コラムでは私傷病(業務と関係ない怪我や病気)で休職する事例を想定して記載しております。 休職制度は労働基準法には特に記載されておらず、あくまでも企業と従業員間の契約上の取り決めとされています。そのため休職の期間が3ヶ月の企業もあれば、24ヶ月と長期に設定している企業もあります。また労働基準法で義務付けられていないため、休職制度自体が存在しない企業もあります。なお休職制度を実施する場合に就業規則へ記載することだけは明文化されています。(労働基準法第89条)
■休職制度を設定することのメリット
なぜ労働基準法で義務付けられていない休職制度をわざわざ設定するのでしょうか?
それは企業にも一定のメリットが存在するからです。
<休職制度のメリット>
・病気になったとしても身分を保証してあげることで、人材流出を防ぐことができる。
・復帰できず休職満了となった場合、解雇ではなく自然退職として扱うことができる。
一方デメリットも存在します。
<休職制度のデメリット>
・休職期間中でも社会保険料の負担分は発生する。
・休職者との連絡や事務手続きなどの人事担当者の負担が増える。 ・休職、復職を繰り返すと影響を受ける現場の士気が下がる。
■身丈に合わない休職制度を導入してしまうと
休職制度は自由度が高く設定できる反面、設計に隙があると企業は思わぬ苦労を背負い込むことになります。良くあるのが大企業や親会社の就業規則をコピーしましたというパターンです。
■長過ぎる休職期間
大企業の休職制度は24ヶ月と設定されていることも珍しくありません。これは人員や部署が豊富にあることで実施可能であることや労働組合の存在していることが由来しています。それを数十人規模の中小企業がそのまま制度を流用してしまうと悲劇が起こります。 ひとつは社会保険料です。休職中とはいえ社会保険料の負担分は残ります。2年も休職すると社会保険料の負担額もかなりの金額になります。もうひとつは24ヶ月休職した従業員にポストを用意できるでしょうか?「イエス」と答えられる中小企業は少ないように思います。企業の実情を無視して長い期間の休職を設定すると・・・実際に休職者が出た際に人事担当者が頭を抱えることになります。
■休職の通算規定がない
また古い就業規則には休職制度の「通算規定」がない場合があります。これはうつ病を始めとする精神疾患と診断される人が少ない時代に作られた規定に多いです。「通算規定」とは、休職から復職した直後にまた休職事由に該当すると、休職がリセットされまた休職期間が設定されてしまうのを防ぐために作成します。休職と復職を繰り返す場合は、従前の休職期間と通算して、休職期間をリセットしない旨のルール設定は必須となります。
■診断書の提出義務を明文化していない
復職判断にあたり主治医の診断書や見解を確認する必要がでてきます。しかし人によっては健康情報の提出を拒む人も出てきます。そこで就業規則に、「復職判断のため、診断書提出や主治医面談について協力する義務があること」を設けておいた方が良いでしょう。
以上のように実態を無視した休職規定は労務トラブルの元となることが多いため、自社で設定するときは入念な確認が必要です。特に大企業の就業規則を丸写しして後年取り返しのつかないことになっているケースを良く見ます。一度作った制度は従業員が不利な方向に容易には変えられません。
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