】柔軟な働き方の推進と、労働時間の適正管理の両立について<社会保険労務士 小山健二>

ライフスタイルの多様化やITの発展により、柔軟な働き方へのニーズが高まり、労働者に一定の裁量を与えてあげたい反面、企業側が労働時間や人件費を適切に管理しなければならず、そのバランスが難しいというお悩みをよくお聞きします。

企業様により状況は様々かと思いますが、今回は、対策の一つとして、「フレックスタイム制」と「時差出勤」をご紹介したいと思います。

1.フレックスタイム制

(1) 時間管理の概要

1日の始業・終業時刻、労働時間が日ごとに固定されず、労使間で定めたルール内で、労働者の裁量で決定できる制度です(会社は具体的な指示が出来ません。)。

フレックスタイム制の導入にあたっては、従業員の過半数で組織する労働組合(ない場合は、労働者の過半数を代表する者)と労使協定を締結することにより、ルールを定めなければなりません。

ルールの中で、フレキシブルタイム(労働者が始業・終業時刻を決定できる時間帯)、コアタイム(必ず出勤していなければならない時間帯)を定めることもできますので、企業として一定の管理を行う事が可能です。特に、働きすぎの防止や指揮命令の観点から、フレキシブルタイムの規定は実務上必須となってきます。

割増賃金は、清算期間(通常、1か月単位となりますが、3か月までの期間で設定することも可能です。)内で1週間当たり40時間を超えた部分に対して支払い義務が生じます。

ただし、1か月を超える期間を設定する場合は、清算期間途中であっても、1か月ごとに区分し、1週間当たり50時間を超えて労働させた場合は、当該月の時間外労働となります。

1日8時間を超えて労働した日や1週40時間を超えて労働した週があったとしても、清算期間単位で、収まっていれば時間外割増賃金を支払う必要はありません。

<労使協定に定める内容>

①対象となる労働者の範囲

②清算期間

③清算期間における所定労働時間

④標準となる1日の労働時間

⑤フレキシブルタイム ※定める場合のみ

⑥コアタイム ※定める場合のみ

※清算期間が1か月を超える場合は、労使協定を管轄労働基準監督署へ届出

※清算期間が1か月を超える場合は、上記に加え、有効期間の記載が必要

(2) 導入の効果

労働者は、月の中で繁閑がある場合や、納期の集中、アポイントの多寡に応じて、ある日は長く働き、ある日は早く帰るという調節を自身で行うことが出来、労働時間を弾力的に設定することが出来ます。

一方、主体的に作業納期や労働時間を設定できない場面では、逆に長時間労働を生み出す要因となったり、細かい指示がないと作業が進められない労働者が一人だけ就業中の場面では作業が進まず非効率となってしまいます。

また、都度、作業を依頼したい労働者については、特定の時間帯に不在であると作業を依頼できませんので、対象者を限定することも一案です。

2.時差出勤

(1) 時間管理の概要

1日の所定労働時間は、シフト勤務やフレックスタイム制を除けば、通常「9:00~18:00 休憩1時間/実働8時間」等と決まっています。「時差出勤」は、実働8時間という1日の所定労働時間は固定され、始業・終業時刻が「8:00~17:00」や「10:00~19:00」といったように、前後にずれる制度となります。

企業が許容出来る範囲で始業・終業時間を数パターン明示しておき、その中で労働者が各自のライフスタイルやその時々の状況等により、パターンを選択できるようにすることが一般的な運用方法です。

割増賃金の算定は、通常通り1日8時間または1週40時間を超えた部分に適用されます。

就業規則に、制度の適用対象者等の要件、始業・終業時刻のパターン、パターン選択時の手続等のルールを定め、運用することが可能です。労働者の選択ではなく、企業の指示で適用させることもできますが、労働者の生活にも大きく影響することから、特別な必要性がある場合に限定することを推奨します。

(2) 導入の効果

労働者の裁量はフレックスタイム制ほど大きくありませんが、始業・終業時刻を選択できることは、業務の都合に合わせて効率的に就業することや、私生活上の予定やライフスタイルと仕事を両立させる面において非常に効果的であり、労働者にとっての満足度は高いものと思われます。

3.まとめ

フレックスタイム制

細かい指示がなくても自身でペース配分や優先順位の判断が出来る労働者、業務成果に対して自律的に行動できる労働者に対しては労使ともに非常に有効な手段ですが、逆にそうではない労働者にとってはコントロールが効かない状態を生み出す要因ともなりえます。

日ごとの繁閑があっても清算期間(1か月等)で労働時間を調節できれば、割増賃金も発生しないため合理的な運用が出来ます。

■時差出勤

会社が通常の時間管理下で指揮命令しつつ、従業員の生活にあわせて始業終業時間を前後できるため、労使双方の意向が適度に反映されたバランスの良い制度といえます。大きな留意点や支障がなく、比較的導入しやすい制度です。

いずれの制度も、状況にあった運用、就業規則の改定、労使協定の作成等、制度上の細かい留意点もありますので、ご興味あればお気軽にご相談ください。

この記事を書いている人 
-Writer-

小山健二

特定社会保険労務士

【略歴】昭和51年生まれ、東京都出身。駒澤大学文学部社会学科卒業。 専門商社、人材サービス業を経て社会保険労務士法人で勤務し、令和4年にエフピオへ入社。

人事労務のみならず、経営企画、仕入、営業部門での多様な経験から、全体最適の視点で業務遂行を心がけています。事業会社、専門家双方でM&Aプロセス、DD実務経験がある。

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コロナ関連 , フレックスタイム , 働き方改革 , 時差出勤 ,
   

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